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第11章 早春のドライブ
東雲から電話がかかってきたのはその翌日だった。
「お礼するなんて言っておいて、遅くなってごめんね。年明けからしばらくは忙しくて。でもちょうど見頃かもしれない」
東雲は祐樹をドライブに誘った。さすがによく知らない人の車に乗っていいものかと迷っていたら、電話を代わってと東雲に頼まれて、母親に取り次いだ。
東雲はきちんと話をしてくれたらしく、行ってもいいと親の許可をもらえた。
「そんなことをしたんだったら、話しなさいよ」
東雲からアルバイトの礼を丁寧に言われて、母親は面食らったようだった。
「言ったよ、知り合いに会って急にバイト頼まれたって」
「それは聞いたけど、荷物運びだって聞いたわよ。お花の先生だなんて言わなかったでしょうが。びっくりしちゃうじゃない。生け花展で知り合ったなんて、祐樹、そんなの興味あったの?」
「え、いやそれは、先輩に誘われて」
「ああ、大澤先輩?」
「うん、まあ」
彼女に誘われたとは言いにくくて、そういうとそそくさと部屋に逃げた。
親には恋愛関係の話はしたくなかった。
兄の達樹はそういうところはオープンで、平気で彼女を家に呼んだりするが、祐樹はつき合っていることも話していない。
達樹だけが綾乃のことを知っているが、絶対言うなと祐樹は口止めしていた。
ともかく、東雲とドライブに行くことになった。
すごくいい景色だからきみに見せたくてという言葉につられて、はいと答えてしまっていたが、何を見せるつもりなんだろう?
約束した翌週の土曜日はよく晴れて絶好のドライブ日和になった。暖かい日で風が気持ちよかった。
祐樹の最寄駅まで迎えに来た東雲は、前回見たときのようなシャツにジーンズという軽装だった。そんな服だとまだ学生といっても通りそうで10歳も上だとは思えない。
「久しぶりだね、元気だった?」
「まあまあです」
何度も見たやわらかい笑顔にすこし緊張しながら返事をした。
慣れたようすで助手席のドアを開けてくれる。女の子扱いされたようで照れるが、東雲はごく自然な動作でドアを閉めた。女性の多い業界にいるのだし、よくあることなのだろう。
「ちょっと遠出するけど、夜までには戻るから」
車はスムーズに走りだし、祐樹は深くシートにもたれた。
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