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第63話
すぐに高速に乗り、館山方面へと車は向かう。行先は聞いていなかったが、房総半島へ行くつもりらしい。
電話で持ち物を聞いた祐樹に、特にないけど何か車で聞くCDを持ってきてと言われた。なので家にあったのを3枚ほど持ってきたが、きっと東雲の趣味ではないだろう。
「レッチリにボンジョビにメタリカ? 意外だな、ロックとかヘビメタが好きなの?」
「これは兄の影響で。両親が洋楽好きなんで、いつもビートルズとかカーペンターズとかサイモン&ガーファンクルが流れてるような家だったんですけど、兄も洋楽ばかり聞いてて」
「お兄さんがいるんだ」
「はい、3人」
あとに続く言葉は予想がついた。
「へえ、四人兄弟か、それは賑やかだね」
「賑やかどころじゃないです」
そうだろうねと東雲は楽しげに笑う。あ、仕事用の笑顔じゃない、と思う。
生花展のときや教室で見た、万人受けするやわらかな笑顔とは何かが違っていた。どこが違うとは言えないその笑顔に、これはプライベートなんだと急に意識した。
「そのお兄さんたちがロック好きなの?」
「はい。でもマドンナとかエルトンジョンとかアバなんかも聞いてますよ。そんなのがガンガン流れてる家なんで、おれの好みとかはもう関係ないっていうか」
「ああ、お兄さんたちに巻き込まれちゃうんだ?」
「自然とそうなります。習い事とかもついでにって感じで」
「何を習ってたの?」
「幼稚園からスイミング、小2からは空手です」
「ああ、空手やってたって言ってたよね。きれいな筋肉がついた体してるよね」
さらりとそんなセリフを言うから、思わず心臓が跳ねて顔が赤くなる。何を意識しているんだか。東雲さんはふつうに会話しているだけなのに。
祐樹はあわてて元の話題を引き戻す。
「東雲さんはどんな音楽を聞くんですか?」
「俺は聞ける場所にいればラジオが多いかな。ラジオだと流行の曲を流すから中高生が聞くような曲も案外知ってる」
アーティストと曲名は一致しないけどと話す横顔を、祐樹はそっと横目で見た。いま俺って言った。プライベートな一人称は俺なのか。
運転用のサングラスをかけた東雲は雰囲気が違っていて、なんだかそわそわさせられる。
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