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第64話

 メタリカをBGMに車は南房総方面に向かって走り、途中のパーキングで休憩をはさみながら富浦ICまで来て一般道に降りた。BGMはボンジョビに変わり、そこからは海沿いの道をのんびり走る。  そういえば車ってある意味、個室だったとドライブ途中で気づいたが、心配したような気詰まりな雰囲気にはならなかった。  東雲の仕事の話や祐樹の学校の話をしているうちに、いつの間にかずっと打ち解けた雰囲気になっていた。東雲は話し上手でもあり、聞き上手でもあった。 「ちょっとお寺に寄ってもいい?」 「はい」  「面白いお寺があるんだ。通称崖観音って言って絶壁に張り付くみたいに建ってるんだけど、その建物も上からの景色もなかなか見事だから」  駐車場に車を停めて、下から見上げただけで、その寺が横縞もあらわな地層に張りついているのが見て取れた。どうやってあんなところに建てたんだろう。 「ほんとにすごいですね」  こんなむき出しの地層を見たのは初めてかもしれない。崖に沿って立つ寺まではかなり距離がありそうだ。 「うん。けっこう階段上がるけど、まだ若いし平気だよね」 「東雲さんよりはね」  そんな軽口をたたけるくらいには2時間ほどのドライブで親しくなっていた。  階段を上って本殿まで上がってくると、街の景色のむこうに海が見えた。空が広い。  息を整えながら絶景に見入っていると、さらりと背中をなでられた。学校でもよくある何気ない触れ方だったのに、どくんと心臓が大きく鳴る。 「息上がってる? けっこうしんどかった?」 「…空手やめてから、最近ちょっと運動不足かも」  動揺を悟られないように、深呼吸して息を整えた。  乱れる呼吸を東雲は階段のせいだと思っているのだろう。祐樹は海へと目線を向けたまま、ぎゅっと手を握りしめた。

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