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第65話

 立派な観音堂でお参りをすませて駐車場へ戻ると、もう昼を過ぎていた。 「そろそろお腹すかない? ここらへんは漁港近いから海鮮丼とかおいしいけど、それでいい?」 「はい、海鮮好きです」  漁港の食堂といった気取らない店で、豪快な具の乗った海鮮丼を食べた。かなりのボリュームだったが、新鮮な魚はおいしくてふたりともぺろりと平らげてしまう。  東雲は祐樹の食べっぷりに、細身でも高校生だねと目を細めていた。  祐樹は自分のぶんは払う気でいたが、それじゃお礼にならないでしょと言われてしぶしぶ財布をしまった。 「ごちそうさまでした。すっごくおいしかったです」 「どういたしまして。やっぱ新鮮な魚はいいよね」  そこからはさらに海沿いの道を南下していく。 「気持ちいい」  ウィンドウを開けた景色に祐樹がつぶやいた。空が広くて水平線まで見通せる。 「高校生だとドライブはしないか。ふだん遊ぶときはやっぱり都内?」 「そうですね、学校近くのカラオケとかボーリングが多いかな。たまに先輩の車で出かけることもありますけど」 「そうか、大学生と付き合ってるんだったね」  綾乃のことを思い出したのだろう。  祐樹も先週のテーマパークのことを思い出して、その時よりずっとリラックスしていることを自覚した。人ごみより体の力が抜ける。 「こんなふうにドライブってしたことなかったんですけど、ほっとするっていうか気持ちいいです」 「そう言ってもらえてよかったよ」  海沿いの道をしばらく走ったら、道路脇が一面の黄色い花に変わった。  房総フラワーロードの看板が大きく立っていて、祐樹が目を瞠る。見頃ってこれのこと? 「すごい。これ、…菜の花?」 「そうだよ。チューリップとタンポポ以外の花も知ってるじゃない」 「さすがに菜の花はわかります」  からかわれて唇をとがらせてみたものの、青い空と海と黄色い菜の花のコントラストはとてもきれいで、すぐに笑顔になってしまう。 「あっちのオレンジは?」 「あのオレンジ色はキンセンカ」  片側が海沿いの道は反対側が花畑になっている。多くの車がゆっくりと走りながら景色を楽しんでいる。  日差しはやわらかいが、車のなかはかなり暖かい。窓をあけるとほのかに甘い、海の匂いがまざった風が入ってきた。

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