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第66話
のんびり車を走らせていくと、さっきの色鮮やかな菜の花の黄色とはちがうオレンジがかった黄色と鮮やかなオレンジのじゅうたんが現れた。
「こっちの黄色とオレンジはポピー、ケシの花っていえばわかる?」
「ケシの花? って麻薬とかの材料じゃなかったですか?」
「ケシから取れるのは阿片だね。でも阿片の材料になるケシはこれじゃなくて、べつの種類。と言っても見た目はほとんど変わらないんだけど」
「そうなんだ。こういう花も生け花に使います?」
「なんでも使うよ。べつにこれはダメとか決まりはないし、最近は品種改良や輸入で新しい花がどんどん出てくるしね」
途中、フラワーパークに入って、一面のストックやキンギョソウや熱帯植物園を見て回った。
植物にほとんど興味のない祐樹だが、東雲の説明は面白くていつの間にか聞き入ってしまう。人に教えることに慣れている人だからなのか、語り口がソフトで聞きやすいからなのか。
「東雲さん、こっちによく来るんですか?」
「たまに、かな。花を見に来るというよりはおいしい魚を食べて、海を見ながら走るのが気持ちいいからね」
祐樹も千葉県民だが、館山まで来たことは記憶にあるかぎり一度もない。
両親は仕事と子育てに忙しいし、家族が多いと各自のスケジュールを合わせるのも大変で、旅行なども数えるほどしかしたことがなかった。
それも上の兄たちが中学生になる頃までの話だから、祐樹はまだ幼稚園くらいのことだ。
そんな話をすると東雲は意外だったのか、そうなんだとつぶやいた。
「じゃあ、今度またドライブしよう。季節が変わればまた咲いてる花が変わって景色も変わるから」
これは次の約束をしているんだろうか。
今回はお礼ってことだったけど、次のドライブの意味は? 東雲は下心などなさそうなポーカーフェイスで、祐樹はなんと返事をすればいいものかためらった。
友人でも後輩でも生け花教室の生徒でもない高校生相手に、どういうつもりで誘っているんだろう。
けれども祐樹の返事を待たずに東雲は続けた。
「ああ、だけどその前に芙蓉の花を見に行かないとね。あれも群生してるととてもきれいだよ」
押し付けがましくはないのに実はけっこう強引だ。
いつの間にか約束が増えている。まあいいかと祐樹は適当にうなずいた。
東雲といて楽しいのは事実だし、ドライブくらいいいだろうと思ったのだ。
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