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第67話
そしてふと思う。もし自分に運転免許があったら、こんなふうに綾乃をドライブに誘っただろうか。リラックスした雰囲気で楽しめただろうか。
車が動く密室だというのは今回、実感した。
気疲れする相手と一緒だと、かなりしんどいことになるだろう。
たぶん、いや、きっとドライブには誘わないだろうな。どこか冷静な頭で祐樹は思った。
綾乃とでかけるのは構わない。でも電車で行くだろう。
人の多い街中に出かけて、映画を見たりショッピングにつき合ったり、カフェでお茶をするのは嫌じゃない。
でもドライブデートはしないだろうと、もう確信していた。
朝、待ち合わせた駅前に、東雲は夕食前に着くように送ってくれた。途中で電話したから、夕食のおかずは祐樹の持っている干物になっている。
ドライブの途中で道の駅に寄ったとき、威勢のいいおじさんに勧められるまま母親が喜ぶだろうと干物やワカメなどを買っていたら、それを東雲に見られてしまったのだ。
「家族思いだね、ちゃんとおみやげ買うなんて」
「というか、先週、おれの夕食当番を1回飛ばしたんで、その代わりというか」
「夕食当番って?」
「兄弟で順番に週一で晩ごはん作らなきゃいけなくて」
祐樹の家の習慣を聞いて東雲は感心したようだ。
得意料理を訊かれたので鍋と答えたらバカにすることもなくにっこり笑って、そこの漁港においしい海鮮鍋屋があるから今度来ようかと誘われた。
次のドライブといい芙蓉見学のことといい、東雲は誘い癖があるのかもしれない。
あまり深く考えず、祐樹はいいですねと返事しておいた。
本当に行くかどうかわからないし、もし行くことになっても東雲とならかまわないと思った。
「きょうはありがとうございました。ドライブ楽しかったです」
「どういたしまして。お礼なんて言いながら、俺につき合ってもらったって感じだったから、楽しんでもらえたならよかったよ」
じゃあまたね、祐樹くん、と前回同様、やわらかく張りのある声で名前を呼ばれて、祐樹はふわりとした気分で東雲の車を見送った。
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