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第12章 仮面の王子さま
4月になって祐樹が年上の彼女と別れたという噂は半日で高等部を駆けめぐった。
「なに、おれが彼女と別れたかどうかがそんなに重要なの?」
「だってさ、王子さまの初めての彼女だったんだよ? それも大学生だから姿見れなくて、噂ばっかりで、実は妄想じゃないのとか言われてたし。結局、俺にも紹介してくれなかったしー」
河野のすねた顔にも驚いたが、そんなふうに言われていたとは知らなくて、祐樹はあっけに取られた。確かに紹介はしなかったけど。
「ていうか妄想ってなに。おれってどれだけ彼女欲しいと思われてるの」
「そうじゃなくて、祐樹の彼女になりたい女子高生たちが妄想じゃないのってやっかみ言ってたんだよ。虫よけ的に女子大生の彼女がいるなんて嘘じゃないのかって」
まったく知らない話で戸惑いを隠せない祐樹に、人の悪い顔で河野が耳打ちする。
「これから大変だぞ、祐樹。フリーになったって知られたら、どんだけ告白されることになるか」
今までも告白されることはあったが「彼女がいるから」と断れば、たいていの子はそれで引いてくれた。しかし次からはその断り文句が使えないのだ。
「しばらく彼女とかいらない気分なんだけど」
ため息をつきたい気持ちで本音をもらすと、河野は心配そうな顔をした。
「そんなひどい別れ方したのかよ?」
「ううん、そんなことない」
別れ話を切り出したのは綾乃だった。
ごめんね、ほかに好きな人ができちゃったの、とまっすぐに祐樹を見て言い、だから終わりにさせてくださいと潔く頭を下げた。
ファミレスでランチを食べたあと、ドリンクバーのジュースを飲んでだらだらしているときだった。突然のことに祐樹はびっくりして、言葉もなくただうなずいただけだった。
綾乃がほかに心を移していたことにまったく気付いていなかったし、別れ話なんてものをされたのも初めてで、こういうときはなんて言うべきなんだろうと、妙に冷静に考えていた。
「ごめんね、ほんとに。怒ってる?」
「怒ってないよ。ていうか、なんか突然だったからびっくりして」
そう言いながら心のなかではほっとしている自分がいた。
別れたいと積極的には思っていなかったが、祐樹からは到底言い出せなかったし、なのに違和感はどんどん溜まっていって、この先どうしたらいいんだろうともやもや考えることが多くなっていた。
おれって最低だよなと自覚しながら綾乃とずるずるつき合っているというのが正直なところだった。別れてほっとしたなんて口が裂けても言えない。
謝る綾乃に気にしないでと首を横に振るのが精いっぱいだった。
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