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第70話

 いままでのように好きなことを言って、甘え上手の末っ子というキャラのままではいられないと思った。この先はもっといろいろと注意深くならなければ。  そう思うと感情のままにしゃべって、照れて顔を赤くしたり怒ってふくれっ面をしたりということができなくなった。本音を見せるのが怖くなったのだ。 「大人になろうと思って」  などと河野にはうそぶいて見せたが、単に怖がっているだけだ。  自分を隠したい気持ちがそうさせるのだ。  やましい気持ちがあるから、本当の自分を誰にも見せられないと、ポーカーフェイスを身につけることを覚え始めていた。  王子さまの仮面をつけてやわらかな笑顔を作って見せながら、こんな自分を好きになってもらって意味はあるんだろうか、とふと思うこともある。 嘘だらけの自分に気持ちを向けられても、そんなの無意味じゃないのか、と。  それでも感情を隠す訓練はやめられなかった。  7月になって東雲から連絡があり、約束通り芙蓉の花を見に行った。  東雲とのドライブはやはりリラックスできた。大人の男性の余裕が東雲にはあって、祐樹のささくれた感情などふわりと包みこんでくれるような気分になる。  そもそもそれほど親しいわけでもない東雲のまえでは自分を繕う必要などなく、王子さまの祐樹ではなく素の祐樹のままでいられる。  高速のパーキングでソフトクリームを食べ、おいしい蕎麦屋があるからと昼は天ぷらそばをごちそうになった。隠れ家的な山のなかのその店は、いかにも大人の行くたたずまいだった。  東雲はどういうつもりで誘うのだろう。 ちょっと年下の弟みたいな気持ちでかわいがってくれているんだろうか。それとももっと別の何かがある?  考えてみたものの、答えは出ない。  取り立てて思わせぶりな態度をとるわけでもないし、なにか誘いかけられるということもない。 ごくごく健全にドライブして花を見て、植物園や美術館にも寄ったりする。  時おり見せる男っぽい仕草にどきっとすることもあるが、祐樹はそっと目をそらしてなかったことにした。 これは年上の男性への憧れだ。なにしろお手本にしているのだから。  二度目のドライブも夕食前に最寄駅まで送られて、穏やかな気分で別れを告げた。

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