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第75話
驚いて固まった祐樹の背中に大澤の手が回されて、ぐっと抱き寄せられた。自分より大きな体格に抱きこまれて、ふしぎな心地よさを味わった。いつもと立場が逆なのに違和感はなかった。
一度離れた唇がもう一度押しつけられ、今度は舌先で唇をなぞられる。おそるおそる開くと、ためらいなく舌が入ってきた。
とまどう祐樹をそそのかすように舌先で誘いかけられて、おずおずと応えるとぎゅっと抱きしめられてしばらく探り合うようなキスをした。
背中に腕を回したまま、唇をそっと離されて耳元をたどられる。ぞくぞくするような震えに似た感覚が背中を走った。
びくっと肩を揺らした祐樹をなだめるように大澤の手が背中を撫でて、そっと体を離された。
「大丈夫か?」
気遣われて、ようやく大澤とキスしたのだと思い至った。
「いえ、すみません。…魔が差しました」
聞いた大澤が一瞬動きを止め、こらえきれずに笑い出した。それで一気に空気が変わって、祐樹はほっとして顔をあげた。
「魔が差したって、お前…」
くっくっとまだ笑っている。
そんなつもりはなかったが、よほどおかしかったらしい。
「で、どうだった?」
「…お上手でした」
「バカ。……ほんとは何が知りたい?」
「おれが男とセックスできるかどうかを……」
思い切って告げたセリフに大澤はあまり驚かなかった。ちょっと眉を上げただけで、そうかとあっさり言う。
あまりにもさらりと受け止められて、現実感がなかった。たぶん大澤は感づいていたのだろう。
もういいか、と祐樹はぽつぽつと本音を話した。キスまでねだっておいて、いまさらだろうとあきらめがついた。
大澤が苦手な先輩であることには変わりないが、それでも信頼していて甘えられる相手であることも事実だった。
そう、甘えているのだと思う。ほかにこんな相手はいない。
綾乃とつき合っているあいだ、なんとなく違和感を感じていたこと。この1年、いろんな女の子とつき合って気持ちを確かめてみたこと。
以前から同性の仕草や体に惹かれていたこと。たぶん自分はゲイだろうと思うけど、確信は持てないし、それを認めるのが怖いこと。
仮にゲイだと認めたとして、だれかとつき合ったりセックスしたりできるのか不安なこと。自分がどうなのかを知りたい、でも怖い。
そんなことを切れ切れに話した。
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