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第76話
大澤はビールを飲みながら、ぎゅっと祐樹の片手を握って口を挟まずに話を聞き、話し終わると静かに「試してみるか」と言った。
「試してみるって?」
「自分が男とセックスできるか、知りたいんだろう?」
祐樹はきょとんと大澤を見上げ、えっと目を見開いた。
「あ、の。大澤先輩と?」
「祐樹が嫌じゃないならな」
「ていうか、先輩って男もオッケーな人でした?」
「大学1年の夏から半年くらい、つき合ってた奴がいる。告白されて、ほんとに一途というかまじめな感じの人だったから、何というかほだされたっていうか」
「全然知りませんでした」
「いや、さすがにうかつに言えねーよ。男とつき合ってるなんて」
「ですよね。…びっくりしました」
現実に男とつき合っていたと聞いて、身近にそんなことがあったのかと改めて驚く。
「で、祐樹が試してみたいならつき合うけど、俺は抱かれてはやれないぞ」
「え、ええ? あー、はい。そうです、よね…」
なんだか急に酔いが回ってきた気がする。ビール2本足らずでそんな酔うはずもないのに、くらくらするような気分で大澤を見た途端、かーっと頬に血が上った。
「でもあの、先輩はおれを、その、抱ける、んですか?」
緊張のあまり途切れ途切れになってしまう。大澤はちょっと首をかしげたが、だいじょうぶだろとうなずいた。
「抱けると思う。お前かわいいし。っていうかさ、そもそも俺は祐樹をけっこう好きなんだけど」
「…そうでしたね」
でもそれはかわいい姫だった中等部のころの話では、と思ったものの、ここで蒸し返すのもどうかと思って口に出すのはやめておく。いや、そんなことよりも。
ええ、と?
試してみるっていまから? ここで?
急激に心臓がバクバクしてくる。
男同士のやり方をなんとなくは理解しているが、大澤はどこまでするつもりなんだろう。抱ける、と言ったが本当に?
黙りこむ祐樹にくすっと笑って、髪をなでてくる。初めて会ったときから何度もされてきた行為なのに、ぴくっと体がちいさく跳ねた。
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