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第82話

「先輩は…、あんまりでした?」  大澤が意外そうな顔をした。 「どうして? すげー興奮したよ」 「だって……余裕ありそうだった」  祐樹が登りつめた後、大澤はまだしばらく体を揺らしていた。  背後に大澤の息づかいを聞いていると、やがてぐぐっと押し入ってきて動きが止まって、体内でどくどくと脈動するのを感じた。体内で他人の射精を感じるなんてすごくふしぎだ。 「そうでもなかったけどな。顔見てたらヤバかったと思う」  大澤が祐樹を引き寄せて、ついばむようなキスをした。 「男同士でもゴム使うんですね」 「ああ。生でもできるけど、祐樹の後始末が大変になるから。誰かと寝るつもりなら使ってもらえよ。病気もあるしな」 「今のところ、そういう相手はいません」  気を遣ってくれたのだとわかって、そういう律義さを好きだと思う。  大澤に感じているのは恋愛感情ではないけれど、体を任せてもいいと思える信頼感はあって、こうして互いに快楽を分け合うのは悪くなかった。  それにこうして抱き合ってみて、自分が男とのセックスに抵抗がないことはわかった。というより、やはり女の子とするよりしっくりきた。 「これって浮気にカウントされますかね? それとも、男はカウント外?」 「浮気って? 祐樹、彼女いないんじゃなかった?」 「え? おれじゃなくて、先輩の」 「俺? 浮気……ああ、言ってなかったか。あいつとはこの前、別れた。だからそんな心配はしなくていいぞ」 「え、そうなんですか? なんで?」 「あいつが社会人になって会う時間も減って、すれ違うようになったせいかな。会社で3年上の先輩社員に告白されて、そいつが好きになったんだって」  社会人の男相手に張り合っても無駄だと思って別れたと大澤は淡々と答えた。まあよくある話だと、さばさばした表情だ。  そうか、別れたのか。長くつき合っていたのに、大澤は平気なんだろうか。それとも平気な振りなんだろうか。 「浮気じゃないなら、またしたい?」  いたずらっぽく訊かれて、祐樹は赤くなって言葉を探した。大澤が楽しげににまにまと祐樹を見ている。ムカつく。でもここは素直に言うべきか。 「……したい、かも」  苦しくて気持ちよくて、同性とのセックスは正直に言うならまたしたいと思えた。 「よかった。なあ、もう一回、できる? ちょっと落ち着いたから、今度は顔見てしたいけど、いいか?」 「そういうこと、言わないでください」  ストレートに誘われて、祐樹は耳まで熱くなる。 「かわいいな、祐樹。めちゃめちゃにしたくなるよ」  物騒なことを口にするわりに、大澤が大らかな笑みを浮かべる。 「ま、彼氏ができるまでは、俺にしておけ」  大きな手に髪をわしゃわしゃされて、祐樹は素直にうなずいてキスを受けた。

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