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第15章 流れゆく日々

 高校3年の1年間、祐樹は誰ともつき合わなかった。  どんなかわいい女の子に告白されてもすべて断ってしまう祐樹に、周囲はあれこれうわさしたが祐樹は一切構わなかった。 「祐樹、今年はまたどうしちゃったの?」  河野が聞いてきたのは6月になるころだった。 「去年はとっかえひっかえかと思えば、3年になってから彼女作ってないじゃんか」 「んー、ちょっと勉強に集中しようかと思って。2年のときかなり成績下がったから取り戻すのが大変なんだ。今年は受験だし」  もうすっかり板についた王子さまの微笑みで、祐樹は隙のない返事を返した。  仮面の王子さまはますます磨きがかかり、いまでは感情的に怒ったり赤面したりする祐樹を見るのはまれなことになっていた。  中等部では姫と呼ばれて怒って蹴りを入れたり、取っ組み合いもしていたのに、そんなこともしなくなった。  河野への返事は半分嘘で半分本当だった。成績がかなり下がったのは事実だが、2年の後半からは大澤が勉強を見てくれているためすでに持ち直していた。  でも去年の祐樹の乱行ぶりを知っていた河野は納得したようだ。 「成績、そんなにヤバかったの? まあな、去年は俺もびっくりしたもんな。次々に彼女、変えちゃってさ。いや、どの子ももめてなかったからいいんだけどさ」  そういう河野は初めての彼女と、ケンカしながらまだ続いている。それをうらやましいと思うときもあるが、その熱さを見聞きしても以前のようなもやもやや焦りは感じなくなった。 「うん。大学入ったら、また誰かとつき合うかもしれないけど、しばらくはいいかな」  祐樹は「感じのいい声」を心掛けて、ゆったり話した。これも去年からずっと気をつけていることだ。感情が出ないように、常にやわらかな話し方をするようにしてきて、ずいぶんと板についてきた。 「そっか。そう言えば、夏期講習どうすんの? 受付始まってるけど、祐樹は行くのか?」 「んー、まだ考え中」  口ではそう言ったが、予備校に通う気はほぼない。四男の祐樹を中高一貫校に通わせるだけでも両親は大変なはずだ。兄3人が大学までずっと国公立を選んでくれたからここに通えたのだと、最近になって祐樹は思うようになった。  そんなことに思い至る程度に大人になっていた。

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