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第16章 別離と始まり

 忙しく過ごしているうちに受験生の秋冬はまたたく間に過ぎ、試験が終わって祐樹は無事、大澤の通う大学に合格した。 「いやー、だけどホントに合格するとはな」  一緒に合格発表を見に行って、大澤がほっとしたように安堵を声ににじませた。  12月の模試ではまだC判定だったので、受からないだろうと覚悟しながらの受験だったのだ。  合格祝いにと食事に入ったのは大学近くのイタリアンメインの洋食店で、大澤もよく食べに来たという。ランチが安くてボリュームがあってお勧めらしい。 「本番に強いというか、運があるっていうか。まあ、ともかくおめでとう」  ジャンジャーエールで乾杯する。 「ありがとうございます。先輩が根気よく見てくれたおかげです。感謝してます」 「なんだよ、素直すぎて気持ち悪いな。お礼をいう祐樹とか…」  大澤が大げさに顔をしかめるので、祐樹はすねたふりでテーブルの下で足を蹴飛ばした。もちろん本気ではない。  大澤は祐樹の照れ隠しをわかっていて、にやにや笑っている。 「でも安心した。ようやく独り立ちさせたって感じ」 「何ですかそれ、親じゃあるまいし」 「いやもう、ほとんど保護者目線というか。お赤飯でも炊いてやりたい気分だ」  祐樹にとっても兄のようなものだったから、そういう気分なのかもしれない。  最寄駅から大学までは歩いて10分ほどだ。大澤が4年間歩いていた道を、今度は自分が歩くのだと思うとなんだかふしぎだった。  駅までの道を歩きながら、大澤はどこかしんみりと言った。 「大学行ってもしっかりやれよ。もう俺の手助けなんかいらないだろ、お前はちゃんとできる奴だから」 「もう会わないみたいな言い方、しないでください」 「ああ悪い、そう聞こえたか?」  実際、今後は当分のあいだ会えないのだ。来週から大澤は4月に入社する会社の研修に入る。  会社の持っている山奥の施設に新入社員全員が集められて、一般職社員は1か月、総合職社員は4か月、みっちり研修を受けるのだ。その後は、配属次第では首都圏を離れることもありうるという。  もう会えないということはないにしても、今までのように頻繁に会うことはないだろう。年に数回、下手したら数年に1回会えるかどうかになるのだ。  わかっていたはずのその事実にすこし戸惑う。

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