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第94話

 そして、東雲とは合格発表の4日後に会った。  車で遠出する時間はないけど、とりあえず合格祝いをしようというので食事の約束をして、東雲の指定した駅で待ち合わせた。  祐樹が店を選ぶとどうしてもがっつり男飯になるので「東雲さんのお勧めに連れて行ってください」とお願いしたら、路地裏にひっそりと構えた関西風のおでん屋に連れて行かれた。  おでんを外で食べるという感覚が祐樹にはなかったので、おでん屋に行こうかと言われたとき、内心ではレストランでおでん?とふしぎに思ったが、店に着いて自分の思い違いを知った。 「こんなお店、初めてです」  カウンター席と半個室の座敷の席がある小料理屋のような作りの店で、日本酒の銘柄がたくさん壁にかかっている。  ファミレスやラーメン屋などとは違う、大人の店という感じがした。お出汁のいい匂いが店中に漂って、ほわりとした空気が東雲に似合う。 「そうか、高校生だとおでん屋には来ないか。ここのだしが本当においしいから祐樹に食べさせたくて」  そんなことをやさしく微笑みながら言うから、ほんとうにこの人は油断がならないと思う。 「なにを食べてもおいしいんだけど、好きな具をまずは3つ、選んで」  冷めるから、という理由で3つらしい。こまめに注文して持ってきてもらうものだそうだ。  注文をすませ、電車なので東雲は熱燗を頼み、祐樹はウーロン茶でまずは合格を祝う乾杯をした。  ほどなく運ばれてきた素朴な焼き物のお椀には、大根とはんぺんと厚揚げが透き通っただし汁にほかほかと浸かっていた。 「これ、すごくおいしいです」  大根を一口食べて、祐樹は目を丸くした。  見た目からは味が薄そうな頼りない感じがしたのに、味はちゃんと染み込んでいてしっかりしただしの味が生きていた。 「でしょう。ここは京都に本店があるんだけど、そこで食べたおでんが忘れられなくて。そしたら2年前にこの店ができて、それからけっこう通いつめてる」  東雲が本当に気に入っている店に連れてきてくれたのだとわかって、祐樹の胸の奥がじんわりとうれしくなった。  高校生同士で行く店など限られているし、そんなに外食する家でもなかったので食事をする店などあまり知らない。  だから本当にどこでもよかったのだが、こうしてお気に入りに連れてきてもらえるのは、特別な感じがしてそれがうれしかった。

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