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第95話
リラックスしている自分を祐樹はふしぎな気分で、他人事のように感じていた。東雲といるのは気が楽なのに、でもなぜかどきどきすることも結構ある。
「おでんの具にえびいもとか湯葉とか初めてです」
「うん。俺もここで食べたのが初めてだったけど、おいしいよね」
えびいも独特のねっとり感がくせになりそうだった。
「東雲さんはなにが好きなんですか?」
「ここで食べてはまったのは、タケノコとつみれかな」
「あ、さっきの。あれもすごくおいしかったです」
やわらかなタコに感動しながら、祐樹はひょっとしてこれって勝負デートってやつ?と思いつく。
合格祝いで会うと決まったときから、きょう返事をしようと決めてはいた。紅葉ドライブの日から4ヶ月も待っててくれたのだ。
東雲の話を聞いていると仕事で忙しい社会人の4ヶ月は学生とは時間の流れが違うのか、それほど長く感じていないようではあるが、それでも待たせているという自覚はあった。
でもどんなタイミングでそれを切り出せばいいのか、よくわからない。少なくとも、この店にいる間ではない気がする。
おでんは4回目で東雲はオーダーをやめ、祐樹はさらに2回、追加を頼んだ。
おでんをつまみに東雲はすいすい熱燗を飲み、大人の男性が酒を飲む姿に祐樹はひそかに憧れを持った。
祐樹もビールくらいはすでに飲んでいるが、日本酒はほとんど飲んだことがない。
待ち合わせが夕方6時と早かったので、店を出たのはまだ8時前だった。
「どうする? もう1軒行くって言いたいところだけど、まだ高校生だし、まずいかな?」
「それってお酒飲む店って意味ですか?」
「いや、未成年に飲ませないよ。帰る時間の話。でもそうだな、久しぶりに会ったし、もうすこし一緒にいたいな」
そんなことをすこし酔った色っぽい顔してささやくから、祐樹の顔はみるみる真っ赤になった。東雲のまえでは、身に着けたはずの王子さまの仮面も簡単に外されてしまう。
「大学生になったら本格的なバーにも連れて行ってあげるよ。ま、きょうのところはカフェかな」
そういって連れて行かれたのは、駅前に建つホテルのなかにあるカフェレストランだった。といっても食事はコースなどではなくカジュアルな軽食で、かるいお酒とコーヒーを飲める店のようだ。
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