97 / 101
第97話
「キスしたいな」
「…こんなとこで、だめです」
うろたえる祐樹を楽しそうに見つめている。なんだ、冗談?
「ソファで見えないよ。ね、ちょっとだけ」
低い声でそそのかされて抵抗できずに目を閉じると、ちゅっと唇が触れてすぐに離れた。
それでほっとして肩の力を抜いて目を開いたところで、ちゅ、ちゅとさらにキスされて、文句を言おうと唇を開いた途端、舌が滑らかに潜りこんできた。
びくっとこわばった肩を引き寄せられて、大きな手でなだめるようにやさしく抱き込まれた。
初めて交わした濃厚なキスは、時間的には長くなかったけれど、誰かが来るかもしれないと思うとそのスリルで心臓がうるさいくらいドキドキした。
「すごい、心臓の音、めちゃめちゃ速くなってる」
「…東雲さんが、いたずらするから」
「いたずらって」
思いがけない言葉だったのか、東雲がくすくす笑う。こんなのいたずらに入らないよ、とからかうように祐樹の髪を指に巻きつけて遊んでいる。
「ずるいです」
「なにが?」
「…そんな顔して、そういうこと言うのが」
「んー?」
いまやフェロモン全開で東雲は祐樹を見つめている。その目線のあまさに祐樹は落ち着かない気分でそわそわと視線を揺らしてしまう。
「なんか、東雲さん、ちょっといままでと雰囲気違うから…」
「そりゃそうだよ。好きだって告白してた子からOKの返事もらったらうれしいし、触りたいし、誘いたいでしょ?」
触りたいなどと言われて、祐樹は動揺する。
ここでじゃないよな? そうか、おれって、もしかして誘惑されてんの?
返す言葉を思いつかない祐樹に、東雲はさらにたたみかけた。
「それに祐樹はまだ恋愛としては俺に落ちてないのもわかってるから、ドキドキさせて落としちゃおうかなと思って」
東雲には憧れているし好きだけど、恋愛感情かどうか迷っているのもお見通しらしい。
ともだちにシェアしよう!