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真はさらに切実に求めるように俺を見る。
好きって言葉、まさか俺の思ってる好きと同じ意味なの?
そんなで遊びでするならとか言うの、おかしくない?
「賢一みたいに後からからんだり、青沼みたいにウソついて好きにしたりは、絶対しない」
遊びでヤっても後腐れないって意味だけど、違う。
やっと、頭が追いついてきた。
性欲を満たしたいから優しくしてくれるのではなく、
俺を守りたいから、
そのためならセックスでもなんでもするって、絶対俺を傷つけないって言ってる。
完璧に優しさが先、セックスがからんでるのに、性欲なんて微塵もからんでない。
「あー、変なこと言って悪かった。遊びでも妃の趣味と合わなきゃよくないよな」
「待って、違う」
違う。
遊びだなんて言うなよ。
趣味に合ってる、合致してるからね。
でも、
セックスは命綱だけど、
よごれまくった俺と真をつなぐなんて、したくない。
俺とつながったら、真がよごれる。
真をよごしたくない。
「遊びで真とするとか、できない」
「ん、わかった」
真がソファから立ち上がる。
俺が楽になる手段なんてセックスしかない。
それができないなら真にも打つ手がない。
帰っちゃうのは当たり前。
だけど、行かないで。
「俺も真のこと好きだから、こんな体、本気で好きなヤツに抱かせられない。けど、いなくならないでほしいんだよ」
好きより、助けてが勝ってしまった。
よごしたくないなら、なにも言わなきゃいいのに。
賢一に百回以上抱かれてる。
青沼くんなんて抱かせた直後だよ。
好きって言っといて抱かせないだなんて。
好きじゃないヤツにはさんざん抱かせておいて。
「どうしたら、俺」
絶対近くにいたいのに、引き止める手段がない。
くやしくて、悲しくて、涙が出る。
俺は真にどうすればいいの?
どうすれば真は俺のそばにいてくれる?
「いなくならないから」
また、踏み外した場所に、新しい道ができる。
絨毯に座り込み半泣きで真を見上げる俺に、真が寄り添うように腰を落とす。
俺の肩を、大きな手のひらが優しくなでる。
真の腕に背中を包まれたとき、真がよごれてしまうと思った。
だから両手で押し返した。
けれど、
やっぱり助けてが勝って、
真の手をつかもうとして、
つかめなくて、
服の袖をつかんだ。
「妃が吹っ切れるまで、待ってもいい?」
こんなに面倒な俺に、真は優しくシンプルな言葉をかけてくる。
「俺とはできないなら、他のヤツとしてもいいから」
俺にとってそれが命綱だって、わかってるのかな。
やり過ごせない問題に、解決策を出してくる。
そんなこと言うの、普通イヤでしょう。
「俺に都合よすぎだ、真の優しいとこ利用するみたいになる」
真が好きなら、真に命綱になってもらえばいい話。
好きな人とセックスするのはふつうのこと。
でもセックスしたら、真の優しさを性欲満たすための手段だと感じてしまうかも知れない。
真を好きではなくなるかも知れないのが、こわい。
せっかく、好きになったのに。
だからってどうでもいいヤツに抱かれに行くとか、そんなの最悪だって、俺でもわかるよ。
「軽視されてるわけじゃないんだろ。重視しすぎて葛藤してるなら、他のことは気にしない」
そうなんだよ、重視してる、なくしたくない。
俺さ、真からそんなに信用ないと思うんだけど、なんでこんなに優しいの。
逆に俺は真のこと、すごい信用してる。
どんなに踏み外しても、待っててくれるから。
……俺が信用してるから、真は俺を信用してくれてるの?
俺が信用してなかったから、賢一や青沼くんは俺を信用しなかった?
真の袖を未練がましくつかんだ右手を、真の左手がからめとり、なでる。
真がふわりと浮かべた笑顔、受け止めていいのか、迷う。
「真の笑った顔、優しすぎて痛い」
新しい道を進むということは、いずれ真をよごすこと。
吹っ切ることができるのか、わからない。
眉尻を下げて苦笑する真。
俺が吹っ切れることを信じてるように見えたから、
俺も真がいなくならないことを信じようと思った。
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