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日常でそういう場面に遭遇したことは避けてたからなかったけど、バイオレンスな漫画とかドラマとかゲームとか、まわりからすすめられても俺はムリだった。 攻撃プラス敵意イコール苦痛、我慢、孤独。 スポーツですら闘志をむき出しにされたら恐怖だったのに。 「妃、俺と賢一の殴り合いの間に普通に入ってきただろ。俺あのときもう少しヒートアップしてたら、妃を突き飛ばして賢一を殴ってたぞ」 いまさら思い出して、恐怖で体がこわばる。 なんてことしてんの俺。 真がヒートアップ手前でホントよかった。 俺、どうしてあんなトコに割り込むなんてできたんだ? 「俺はあのとき、とにかく止めなきゃいけないと思った。二人とも本当は優しいの知ってたから、止まると思った」 こわくはなかった。 なんで。 攻撃も敵意もあった。 だけど苦痛と我慢を思い出さなかった。 昔と、違ってたから。 「俺、真も賢一も、どっちもこわくないじゃん」 真も賢一も優しいの知ってたから、攻撃も敵意もこわくはなかった。 反撃ではないけど、反抗してた。 止まると思ったから、いら立ちがなかった。 真が俺の名誉を守るために怒ってた。 孤独がなかった。 だから行けた。 ……俺は、行けるの? 「子どものころは、大人の暴力なんてどうにもできなかったけど、今は、どうにかできる?」 そうなの? わからなくて真に聞くと、真は少し考えて、答えてくれた。 「そうだな。青沼ともう一人にかなわなくても、言葉でかわして俺を呼んで、つかまっても青沼の腕から逃げられたな」 かわして逃げた? 力では勝てないヤツから、そんなことできた? やってたな、帰り際にエッチなら二人でしろって余裕で文句言った。 真が来るまでは言えなかったから真がいたってのがデカいけど、いつもはクソとか思ってても、反撃がこわくて絶対に言えない。 力では勝てないと思ってたけど、俺、多少は肉体労働してるから、抱かれた腕から逃れるくらいならできる。 「なに? そんなに不安になること、ないの?」 ケンカを止める、助けを求める、文句言って逃げる。 できるようになってる。 前は、できなかった。 どうにもならない問題なんて起きてないのに、 起きたら絶対に防げないって、 なにかが起きること自体におびえていた。 でも、 なにかが起きても、 どうにかできるんじゃないのか。 「そうかもな」 真が小さく笑って肯定する。 さっきまで、落ちて落ちて落ちて落ちて、どうしようもなかった。 原因がなくて解決しようがなかった。 しかたないから真に抱いてよって言う寸前だったのに。 いつの間にか、胸の苦しさやめまいが消えていた。 セックスなしで、解消できるんだ。 「俺、またどうにもならなくなるの心配してたみたいだけど、もう、大丈夫なのかも知れない」 真のおかげ。 体が急に楽になって大きく深呼吸すると、真が俺を抱き寄せてきた。 安心したところにこんなの、さらに安心するじゃん。 俺がありがとうって感謝するトコなのに、なんでこうなってるんだろ。 こういうの、さんざん男と付き合ってきたけど今までなかった。 キスと同じく、避けてきた。

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