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学部の違う真には会いに行かなければ会えない。 けど学部が同じ賢一は週に何度か、大学内ですれ違うタイミングがあった。 いつもは気づいてもすれ違っていたのに、その日なにを思ったか賢一が突然、高校のときみたいな気さくな笑顔で声をかけてきた。 こわくはない、ごめんなさいって、気まずい。 「妃あのさぁ、奈良場だっけ? 用事あんだけど、あいつんトコにつれてってくんない?」 「なに用事って? あんまつれて行きたくない」 少し前までは軽口叩き合ってたから、警戒しながらもふつうに話せた。 賢一はすねた顔でため息をつく。 「ケンカとかもうしねーよ? 最近トモダチになったんだけどさ、学部も学年も知らねーんだよ」 は? 殴り合いしたのに友達? 真がケンカした後に一度賢一と話したって言ってた。 超絶無愛想に会話するくらいならまぁ想像できるけど、友達? 「そんななにも知らないで友達とかないだろ」 「あるんだよ、大丈夫だって。昼メシ食う時間なくなんだろ、早く」 ああ、もう。 たぶん賢一には優しくしてもらった割合が多かったから、 怒ってなくて安心したから、 大丈夫という言葉を信じて賢一を真の教室に案内した。 賢一つれてったら真は少し困った顔をしたけど、本当に大丈夫だった。 よくわかんないけどちゃんと友達らしい。 俺がホッとしてるところで、ソッコー賢一が真に用件を切り出した。 「奈良場。さっきの妃っぽい元カノ、とりあえず紹介しろよ」 さっきって。 さっき会ったのかよ。 俺に案内させたの絶対嫌がらせだろ。 そんな、俺っぽい元カノって。 ここの教室たまに来てて、いい服着てんじゃんと思った女の子がいた。 茶髪のショートで黒皮のジャケットに細身のジーンズ、オシャレなデザインのボディバッグを背負ってた。 たぶん、あの子のことだ。 ショートだけどボーイッシュではなくセクシーの部類だった。 あの子をナメられたら、そりゃあ怒りも沸いて殴るよね。 賢一は元カノがいないとわかるとすぐに帰っていった。 俺に案内させたの、どんな意味あんの? 俺が元カノっぽいから真に相手にされてんだぞって言いたいの? それはないよ。 真はちゃんと俺を見てくれてるって思うもん。 ホント、なんで案内させたの、こんな。 前に優磨が言ってた、真がバイク乗ってて彼女が美人でカッコいいって。 俺も今、そう思った。 大型のアメリカンなバイクにさ、背が高くてクールな真とあの彼女が乗ってたら、隙がないくらい絵になるよ。 陽織って言ってたかな、あの子のファッションは元カレの影響だったのかも。 俺が真にいつも借りてるメット、もともとあの子のものだった。 俺は、隙だらけだ。 だまってるからまわりに気づかれないけど、ヤるのは男、好きになったのも男。 マイナーだから弱点。 なにかあったら突かれるところ。 そもそも男なの女なのって思われる。 それでいてヘラヘラしてて、まともな人間にはまず見られない。 まぁ、まともじゃないけどね。 中身も非の打ちどころだらけ。

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