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第7話
どうやって彼に話し掛けようか。
あの頃、ずっとそんなことばかりを考えていた。彼がうちのクラスにやって来てから何日かが過ぎたが、一向にそのチャンスはめぐっては来ない。
留学して来たその日から、学校中の人気者になった彼の周りにはいつも誰かがいた。その誰かが彼の視界を独占するから、きっと僕はその視界にすら入ってはいなかった。
そうなるともう、彼と仲良くなるためには自分から話し掛けるしかなかった。彼は留学するにあたって少し日本語を勉強して来たようで、片言でなら会話ができる。
それでも、急に話し掛けて欝陶 しいと思われないだろうか。馴れ馴れしいやつだと嫌われでもしたら。
そんないつまでもうじうじと考えてしまうネガティブな性格のせいで、僕は彼のことを遠巻きに見つめながらもなかなか近づけないでいた。夏休みボケがそろそろなくなる頃なのに、いつものように誰と喋ることもなく僕はただぼんやりと外を眺める。
給食が終わったあとの休憩時間、お昼休みと呼ばれる時間帯。この少し長めの時間の潰し方だけは、いつも悩んでしまう。
手持ち無沙汰に校庭を眺めていたら、
「なあ、木田。なんか見えんの?」
久しぶりにクラスメートに声をかけられた。
「あ、えーと。あそこ。あの木の陰に小鳥がいるんだ」
ぼんやりしていてもすぐ返事ができるように、あの頃の僕は模範解答 をいくつか用意していた。答えられないと暗いやつだと思われるし、それがいじめのきっかけになり兼ねない。
「えっ、どこ?」
適当に言った返事に、今でも付き合いがある村田は、窓から身を乗り出して小鳥を捜しているようだった。普通なら『へえ』の一言でやり過ごすであろうくだらないことにも耳を傾けてくれた村田は、
「木田。おまえ、目がいいのな……、ってか、おまえがかけてる、その眼鏡がよく見えるのか」
そう言うと、わははと笑い、
「おーい。村田ー」
友達が呼んでいる方へ戻って行った。
普段、友達のいない僕に話し掛けて来るのは変わり者の村田ぐらいなものだった。
「木田。池間先生が呼んでたぞ」
「あ、うん。ありがとう」
他のクラスメートからは先生からの伝言を受け取るぐらいで、特に会話らしい会話はない。
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