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第22話

 ふと我に返れば、いつの間にか周りの風景が変わっていた。広々とのんびりとした郊外を抜け、タクシーは一路、街中(まちなか)を空港の方へと向かっている。娘の華は景色を眺めることに飽きてしまったらしく、シートに深く沈んで眠っている。  外はうっすらと雪まで積もっていると言うのに、華はうっすらと寝汗をかいていた。額に張り付いた前髪を指先でどけてやると、居心地悪そうに小さく身じろいだ。  怒涛(どとう)のように溢れ出して来る、意識して消してしまった記憶の残骸に押し潰されそうだ。一つ一つ重箱の底をつつくように掘り出して来るそれとは違い、無意識のうちに思考があの頃にトリップしてしまう。  ふと携帯電話を見遣ると、着信があったことを知らせるランプが点滅していた。物思いに耽っていたせいか、全く着信に気づかなかった。  携帯電話を開いて液晶画面を覗き込むと『村田』の文字と、案の定、『着信あり』と表示されていて。  少々お節介で心配性の村田は、僕らだけをこちらに送り出したもののそんな僕らが心配でならないんだろう。  あくまでも『着信あり』で留守電マークが出ていないところを見ると、留守番メッセージは録音しなかったと推測できる。日本とは時差のこともあるし、折り返し電話するのはやめておいた。  ロンドンの食事はジャンクフードであまり美味しくないと聞くし、こちらで食事を取るのもやめにした。この町並みだけには少しだけ未練もあるけど、君がいなきゃ意味がない。  君が生まれた町。  君が育った町。  そして――、逝った町。  初めて来たばかりなのに追憶ばかりが溢れ、なんとも居心地が悪かった。  いつか、ちゃんと向き合える日が来るのだろうか。大切な人の死に。  花苗の死からは一年が経ち、もうすっかり立ち直っているというのに。ジョンのことは空白の期間も合わせて十数年間、ずっと引きずったまま。   悪戯に蓋をしたまま、記憶の中から消し去っていた君の記憶。一緒に笑ったことも泣いたことも、あの夜、君と結ばれたことも。

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