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第2話
「え、な…ん、ですか?何を…っ」
突然ベッドの上に押し倒され、ましろは驚愕と共に覆い被さる男を見上げた。
天王寺は、一体何を……?
連絡先を交換すると、天王寺はすぐに店を辞した。
閉店時間になり、退勤したことをメッセージアプリから連絡すると、すぐに行くという返事があって、『SHAKE THE FAKE』の入るビルの前で待ち合わせる。
ましろはこのビルに住んでいるので、よかったら自分の部屋で、と誘ったのだ。
普段一人では飲まないが、客からもらった酒はたくさんある。
また彼を不快にさせてしまうかもしれないと思うと怖いが、客とキャストとしてではなく、幼馴染みとしてプライベートな空間で話ができれば、もう少し上手く話せるのではないか。
近くで時間を潰していたのか、すぐにビルの前に現れた天王寺を見て、ましろは一瞬見惚れた。
すらりとした長身に、短く整えられた髪。光沢のあるグレーのスーツの上に羽織った黒いトレンチコートを翻しながら歩いてくる様は、それだけで映画のワンシーンのようだ。
意思の強そうな瞳にキリッと引き結ばれた口元。昔から整った顔立ちだったが、大人になってますますかっこよくなっている。
恋人はいるのだろうか。
一見厳しそうに見えるが、誰かが困っているのを放っておけない優しい人だから、彼の恋人は幸せだろう。
ましろはこの年まで恋人がいたことはない。
一応、誰かを好きになることや、一生を共に過ごすパートナーの存在に憧れはある。
自分の相手としてなんとなく想像してしまうのは天王寺のような人だが、それは恋というよりも、頼りない自分をフォローしてほしいという、甘えや依存のようなものだろう。
自分にはどこか欠けたところがあり、一緒にいる人に知らないうちに迷惑をかけてしまう。
子供の頃、仲良くできていると思っていた、天王寺を怒らせてしまったように。
それが怖くて、性別は関係なく、ましろは誰かと深い関係になることを避けていた。
だから、大人になった天王寺から、あのとき何故怒ったのかを聞ければ、ましろも前に進めるかもしれないと思っていたのに。
それなのに、どうして。
両手首を一纏めにして拘束され、何故こんなことをするのかとネクタイを緩める男を見上げても、答えは返ってこない。
「いつもしていることだろう?金は払ってやる」
天王寺は、苛立ちを隠さない声音でわけのわからないことを言う。
ましろはただただ困惑し、ベッドに縫い止められた身体を弱々しくもがかせた。
「……やっ」
何度もましろを助けてくれた器用な指先が身体を這う。
辿り着いた中心に触れられ、ビクッと体を揺らした。
予想だにしていなかった事態に、抗うことすらも思い付けず、見上げるしかできない。
「どうし、て」
視線が交わると、天王寺の苦しげに顔が歪んだ。
それは、あの日と同じ、
「そんな目で見るな」
回想が完成する前に、乱暴にうつ伏せにされて、下着ごとズボンを下ろされる。
硬いものをあてがわれて恐怖を感じ、訳もわからず逃げようとしたが、それは叶わなかった。
「や……、いや、っあ!痛……!」
強引に押し込まれたが、経験のないましろが受け入れられるはずもない。
痛みを感じ、苦痛を訴える声が漏れた。
無理なことがわかったのか、天王寺が動きを止める。
身を強張らせていると、後ろから回った手が竦んでいるましろを扱く。
「あっ、あ…、あっ、」
天王寺の綺麗な手が、あんなところを。
そう思った瞬間、ドクンと心臓が鳴り、気付いた時には射精していた。
「っ……は、……っ」
自分でもほとんど自慰をしないましろにとって、強引に昂められることは過ぎた刺激だ。
腕に力が入らず、ぺたりと伏せて胸を喘がせていると、腰を抱え直した天王寺の指が後ろを探り始める。
「や、そんな……ところ」
器用だが強引な指が狭い場所を解していき、再び硬いものがあてがわれる。
「っ」
逃げられない。
「や、待っ……あぁ……っ!」
わからない。
どうして。
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