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不器用な初恋のその後14

 ましろが今の自分の気持ちをどうにか言葉にすると、天王寺はそれを反芻するようにしばし沈黙し、そして。  何故か、ダイニングテーブルに突っ伏してしまった。 「ち、ちー様……!?ど、どうかされたのですか?」  ましろは驚き、身を乗り出す。  自分は、そんなに変なことを言ってしまっただろうか?  それとも、月華や城咲と会ったり、その帰りに土地を見に行ったりしたせいで疲れてしまったのか。  どうすればよいかわからずにおろおろしていると、天王寺はのろのろと顔を上げる。 「ちー様……?」 「いや…悪い。少し…自己嫌悪に陥っていたというか、己の情けなさにダメージを受けたというか」 「自己嫌悪……?」  どうして天王寺がそんな風に思うのかよくわからず首を傾げる。  ましろの丸くなった瞳を見、天王寺は微かに口角を上げた。 「俺は、お前にも一緒に暮らしたいと言ってもらえて、浮かれていた」 「えっ、それは、私もですが……」  言いながら、つい赤くなってしまう。  天王寺も同じ気持ちでいてくれたのならましろは嬉しい。  それの何がいけないのだろうと不思議に思うのを察したように、天王寺は瞳を翳らせ、続けた。 「お前は、もっと先のことを考えていたのにな」 「それは…私の方が気をつけなければいけないことが多いからではないですか?私も、人から言われるまで月華に話さなければいけないことすら失念していましたし…」 「いや……、お前はいつも俺を持ち上げてくれるが、」  天王寺は何か否定の言葉を口にするようなそぶりを見せたが、一旦言葉を切り、ましろの通帳にそっと手を乗せる。  そして、まっすぐにましろを見つめた。 「俺は欠けたところの多い人間だ。苦労をかけることも多いと思うが、…やはり、お前を離したくない。家のことも…一緒に、背負ってもらってもいいか?」  ましろは、喜びに胸を詰まらせながら、何度も頷く。 「ちー様…。も、もちろんです…!」  改めて想いを確認し合った二人は、見つめあい微笑みあった。 「…少し気が急いてしまったが、場所のことも、建てる家のことも、もっとゆっくり考えて決めよう」 「はい。でも私は、ちー様がいてくだされば、どんなところでも幸せです。駅から遠くても、すごく狭い部屋でも」 「そうは言うが、広さは必要だろう。今のお前の部屋にある植物とか大量のキッチン用品とか、それなりの広さがないと収納できないぞ」 「植物は人に譲ったりもできますし、キッチン用品は、頻繁に料理を作りにくる一の物なので、そのまま置いていきます」  植物を貰ったり預かったりしてくれそうな人の心当たりはそれなりにあるので、引っ越し先の広さを見て持っていく鉢を決めればいい。  荷物は少ないと安心させたつもりだったのだが、聞いた天王寺はにわかに表情を曇らせた。 「一……か」 「ちー様?」  城咲がどうかしたのだろうか。  そういえば、先程城咲に連れていかれた時に、料理以外には何を話したのか、まだ詳しい話を聞いていない。 「あの、先程一は、」 「お前が大切にされていたのはいいことなんだが、少し面白くない」 「え…、ご、ごめんなさい」  思わず謝ると、天王寺はすっと目を眇めた。 「謝るようなことがあるのか?」 「月華や一が私に対して過保護なのは、そもそも私がいつまでも自立できないせいなので…」  至らない己が申し訳なくてしょんぼりするましろに、天王寺はすぐに表情を和らげる。 「お前は、お前が思うよりもきちんと自立できている。彼らは、ただ甘やかしたいだけだ。ましろのことが、好きだから」  だから、面白くないのだと説明されて、それは確かにそうかもしれないと思った。  自分もそれが心地よくて、甘えている自覚はある。 「肝に銘じます」 「お前は真面目だな。そうじゃなくて、俺にはよくわからないが、家族というのはそういうものなんじゃないのか。お前や神導……月華を見ていて、少しそう思った」 「そうかも……しれません」  でも、だとしたら、月華は先程天王寺を家族だと言っていた。  きっと、自分や他の仲間と同様に、とても大切にするだろう。  考えていくうちにだんだん心配になってきて、ましろは眉を下げた。 「……ちー様が、面白くないと言った気持ちがわかりました」 「急にどうした」 「月華がちー様にとても親切にしていたら、私も少し面白くないと思ってしまうかもしれません…」  ましろが選んだ人だからという以前に、天王寺は月華の好みのタイプだから、何はなくとも優遇するはずだ。  そして月華が人として魅力的であることも、ましろはよく知っている。  天王寺も月華といる方が楽しくなってしまうのでは……と不安に思った気持ちを、素直に話すと、天王寺は何か思いついたように言った。 「……だったら、古典的だが、安心できるようなことをするか」 「?それはどんなことですか?」  聞き返すと、天王寺は刹那、言葉に詰まり、次の瞬間には悪戯っぽく口角を上げる。 「恋人と二人でする、家族とはしないようなことをすればいい」

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