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2.事件

「んー、だるっ…。身体熱い…」 つばきは自室のベットで目が醒めると、いつもの体調不良とは明らかに違う身体の不調を感じた。 もともと体は弱い方で熱を出すことも頻繁にあったが、今、身体に感じる熱は、なにかが違っていた。 「つばき様、いいがげんお目覚めになってください」 ノックの音の後、扉の向こうから響く低い声の主は執事長だった。 いつもであれば、つばき専属の執事である楓が毎朝起こしに来ることになっていた。 だが、今日は朝から外せない用があるということで、朝の支度は他の執事に頼むと昨晩楓が言っていたことを、ぼーっとする頭でつばきはなんとか思い出した。 「執事長直々かよ…」 執事長は楓の父親で、ずいぶん前から親子共々、香坂家に住み込みで仕えていた。 小さい頃から礼儀作法や教養などで厳しくされてきた執事長に、つばきは今でも逆らうことが出来ないでいた。 「はいはい、起きてますよ」 つばきの返事を聞くと、執事長が扉を開け、部屋に入ってきた。 「失礼します。起きていらしたなら、ご自身でお支度なさってください。貴方は次期当主でいらっしゃるんですよ。だいたい、楓も甘いのです」 執事長は小言を言いながらモーニングティーが乗せられたワゴンを押し、ベットにいるつばきに近づいてきた。 「だいたいですね…。うっ…」 ベットの手前で執事長は急に立ち止まると、そのままその場に膝をつき、苦しむように四つん這いになってしまった。 「お、おい!どうしたんだよ」 つばきは慌ててベットから飛び起き、執事長に駆け寄ると、しゃがんで執事長の肩を揺らした。 「おいっ!」 肩を揺らしながらつばきは声をかけると、その手は急に執事長に掴まれ、強い力で引っ張られた。 不意なことで受け身のとれなかったつばきは、思いっきり肩を床に打ちつけてしまった。 「うっ…!」 絨毯の敷かれた床のおかげで衝撃ほどの痛みはなかったが、動けずにいるつばきの両腕を執事長は押さえつけると、そのままつばきの上に覆い被さってきた。 「おい!何をするんだ!!」 つばきは執事長の顔を睨みつけたが、執事長の目は血走り、呼吸が乱れていて、とても正常な状態ではなかった。 「あっ…」 見たこともない執事長の様子に恐怖を覚えたつばきは、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなってしまった。 「オメ…ガ…」 掠れた声で小さく呟いた執事長は、つばきのシルクのパジャマの上着を両手で掴むと、左右に力いっぱい引っ張った。 「なっ…!」 「オメ…ガ!!オメガ!!」 あっという間にパジャマのボタンがすべて弾け飛び、つばきのきめ細やかな肌の上半身が晒け出されると、今度はつばきのパジャマのズボンに執事長は手をかけてきた。 つばきは足をバタつかせながら必死に執事長の胸を押し、自分から離そうと力いっぱい抵抗する。 だが、その手はいとも簡単に掴まれ頭上で一纏めにされると、そのまま押さえ付けられてしまった。 「だれかっ!…んっ!!」 焦ったつばきは、廊下にも聞こえるように大声で助けを求めようとしたが、叫びかけたところで執事長の手がつばきの口を覆い、大声を上げることが出来なくなってしまった。 「んーんっ!!」 声が届かない分、つばきは代わりに先ほどより足をバタつかせ、必死に物音を出し、誰かに気づいてもらえるよう抵抗を続けた。

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