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5.誘い

「つばき様、戻りました」 簡単に事情を説明して、他の執事とメイドたちに気を失った執事長を任せた楓は、自室から発情期抑制剤と、念のため予備の特効薬を持って、つばきの部屋の扉の前に戻ってきた。 一呼吸おいて、楓はつばきの部屋をノックするが反応がなく、再度ノックをするが、また反応がなかった。 楓は慌ててドアノブを捻るが、鍵がかけられていて扉は開かなかった。 「つばき様っ!いらっしゃるんですか、つばき様!!」 先ほどの光景を思い出し、またつばきの身に何かあったのではないかと、楓は必死に扉を叩いた。 すると、カチャっと鍵が開けられる音がした。 「つばき様!」 慌てて楓は扉を開けると、先ほど引き裂かれたパジャマから白いシャツに着替えたつばきが、体重を預けるようにしながら壁に凭れ掛かって立っていた。 「つばき…様…」 着替えの途中だったのか、つばきは下着を身に着けていないままで羽織っただけの白いシャツ姿で、裸とほとんど変わらない姿だった。 普段は服に隠れて見えない鎖骨下や太ももは、どこを見ても陶器の白く、思わず楓は目を奪われた。 「うっさい。聞こえているよ。お前が鍵かけろって言ったんだろ」 「…失礼しました…。お着替え中とは知らず」 「いや、別に…分かれば…あっ…」 「つばき様!!」 壁に寄りかかっていたつばきが、急に力が抜けたように膝から崩れそうになり、とっさに楓はつばきを抱きとめた。 「ははっ、ごめん。急に力が抜け…あっ!」 今度は膝に全く力が入らなくなったかのように、つばきは楓の腕にしがみつきながら床に座り込んでしまった。 楓の腕を掴むつばきの指先は、小刻みに震えていた。 「つばき様…」 「身体に力が入んないや。それに変なものが垂れてくるんだけど、これが発情期ってやつ?」 楓はつばきが指さした先を見ると、シャツの裾から覗いて見えるつばき自身は屹立して、先端からは透明な液体が糸を引いて垂れ下がっていた。 それだけではなく、後ろの秘部からも同じような液体が溢れているようで、つばきの太ももをあたりを、粘着質な液体がねっとりと濡らしていた。 楓はあまりに扇情的なつばきの姿に、思わず息を吞むが、この様子ではつばきの身体から相当量のΩフェロモンが出ていると気付き、危険を感じた楓は急いで部屋の扉の鍵をかけた。 カチッという鍵の掛かる金属音と同時に、楓は気持ちを落ち着かせようと目を瞑り一呼吸おいてから、つばきの方を振り向いた。 「とりあえず、ベットに行きましょう。このままではお辛いでしょう」 「楓、立てないから抱っこしてくれ」 つばきを立たせようと楓は手を差し出すが、つばきはその手を取らず、子供が抱っこをせがむように両手を広げて差し出してきた。 「つばき様…。私、今やっと執事長を運んできたところなんですが…」 「だから、何?」 「…。わかりました」 楓は仕方なさそうにつばきを肩に抱き抱えようとするが、つばきは首を横に振って、楓の首に手を回した。 「よーこ」 「はいはい」 「ハイは一回」 揚げ足をとりながら自分の身体の変化に慌てもせず笑っている様子のつばきに、若干呆れ気味な楓は、つばきを横抱きにして持ち上げた。 すると、首に回されたつばきの腕から、平常時より高い体温を楓は感じとった。 抱き上げるために直接触れているつばきの太ももも、回された腕と同じように熱く、まさしく発情期の症状だった。 高い体温だけではなく、荒い吐息も熱を帯び、楓にはつばきが虚勢を張っているように感じられた。 (この状態、本当ならきっとお辛いはず…) 普段、楓は発情期抑制剤で完全に発情期を抑えているため、自分がΩだと知らずに初めて訪れた発情期以降、発情期の感覚を味わってはいなかった。 (あの時は…。薬もなく、自分を慰めて発散させても取り留めなく湧いてくる欲望に戸惑い、恐怖を感じた。そして…初めて自分の欲望の醜さに気が付いてしまった) 突然訪れた発情期は、楓の奥底に隠し続けてきた感情を、いとも簡単に露呈させた。 つばきに挿入することを想像して、自身の固く屹立したものを何度も擦り、数えきれないほど達した。 けれど、身体はそれだけでは満たされず、後ろの秘部の疼きが抑えきれないまま、罪悪感に押しつぶされながらも、つばきに指を挿入されることを想像して、自身の秘部に指を差し入れた。 自分がつばきを犯すと同時に、犯される。 そんなありえないことを想像しながら、指では決して届くことのない部分で快楽を得ようと、幾度となく内部を指で掻き回し続けた。 それは今までにはない快楽と背徳感を楓に与え、何度も絶頂へと誘った。 (こんな汚い私には、つばき様をどうすることも…) 抱きかかえていたつばきをベットに降ろそうと、楓は片膝をベットに乗り上げてつばきを横たわらせる。 そのまま身体を離そうとするが、楓の首に回されたつばきの腕は離されるどころか、力をこめて首を引っ張られしまう。 そのため、楓はバランスを崩し、つばきの顔の横に両手をつき、覆いかぶさる形になってしまった。 「あの…離していただきたいのですが…」 「やーだねぇ」 悪戯に微笑むつばきの顔は、楓にとって想像の中のつばきよりも扇情的だった。 「つばき様…」 「なぁ、お前は俺に欲情しないの?」 「何を言って…?」 「フェロモンなんかなくても、俺に欲情しないのかって聞いてるんだよ」 「言っている意味がよくわかりません」 「俺の身体、触りたいと思わないの?」 そう言って、つばきは楓の手を取り、自分の頬を包むこむように触らせる。 「何を言って…。執事の私が、主人に手を出すわけがないでしょ」 (私の本当の気持ちは、決してこの人にバレてはいけない…) 楓は残っている平常心をかき集め、秘めた思いを悟られないよう平静を必死に装った。 「それもそうか。お前って昔からそういうお堅いやつだもんな。でもさぁ、俺、どうしたらいいの?」 「どうしたらって?」 「この状況だよ。俺、発情期初めてなんだけど」 「それは…。とりあえず、一度発散されたらどうですか?一旦治ったほうが、抑制剤も効きやすいですし」 「へぇー。じゃあ、お前もこんな風になったことあるんだ?」 「そ、それは…」 「なぁ、お前はどうやって発散したの?」 「はっ?」 つばきは楓の耳元で囁きながら、頬に触れさせていた楓の手を自分の浮き出た鎖骨までゆっくり誘導した。 「お前はどうやって処理したの?すっげぇ興味ある」 「そんなこと…言えるわけないでしょ」 鎖骨の形をなぞらせるように触らせるつばきの手から逃れようと、楓は手を引っ込めようとするが、その手はすぐにつばきに掴まれてしまう。 「なぁ、教えてよ。楓は何を想像したんだ?そんな性欲なんてありませんって冷めた顔して、何をしちゃうのかな?」 「そんなこと、言えるわけ…」 「どっかのαのアレとか挿れられること想像した?」 不敵に笑うつばきに、楓は声を荒げる。 「いいかげんにしてください!いくらつばき様でも、侮辱されれば私も怒りますよ」 「侮辱なんかしてねーよ。どうやって発散させるのか教えてって、お願いしてるんだよ」 「できるわけ…ないでしょ」 「あっそ。じゃあ、俺はその辺の適当なα探すわ。俺、結構面食いだけど、今なら誰でもいいって感じ。あっ、でも発情期中のセックスは子供できる可能性高いんだっけ。番にもされちゃうかもな」 「つばき様…なにを言って…」 顔を引き攣らせる楓の頬に、今度はつばきの手がそっと触れる。 「どうする?俺をその辺のαと適当にやらせるか、それともお前が協力して発散させてくれるか…」 「何をばかな…」 「効率的だろ。発散の仕方がわからないやつの目の前に、それを知っているやつがいるなら教えを請うだろ」 「…。それが教えを請う態度ですか?」 「そうだよ。あー、もうめんどくさい。お前黙れ」 痺れを切らしたように、つばきはいきなり楓の首に腕を回し唇を奪い、そのまま舌を差し込む。 楓は必死に顔を離そうとするが、つばきの腕はきつく楓の首に回されていて離れることが出来ない。 だが、差し込まれた舌は縦横無尽に動くわけでもなく、とりあえず動かしているという感じだった。 簡単に言ってしまえば下手だった。 (まさか初めて…) 薄めを開いてつばきを見ると顔を赤くして、まるで必死な様子だった。 (まさか…そんな…) 楓は試すように差し入れられたつばきの舌を噛むように刺激すると、つばきは驚いたように舌を引っ込めてしまう。 そんな反応に、楓は胸に湧き上がるものを感じ、つばきの顔を両手で包み、我を忘れてベットに押し付けるようると、激しく口づけをした。 「んっつ・・」 つばきの咥内に侵入した楓の舌は、つばきの舌を絡めるだけではなく、歯列に沿って舌先を這わせるとつばきの身体がびくっと何度も跳ね上がる。 首に回されていたつばきの腕はいつのまにか力が抜けていくようにベットに零れ落ち、快楽に耐えるかのようにシーツを掴んでいた。 「つばき…さま…」 (あぁ…。今、私の与える快楽に溺れているのは、本当につばき様なんだ…) 決して叶うことはないと思っていた自分が与える快感に反応をするつばきの様子に、楓は心が満たされていく。 楓の頭の片隅で、こんなことをしていては駄目だと警報が鳴り響いている。 だが、今まで秘めた想いをずっと抑えていた分、もう楓には制御出来なかった。 (これは、つばき様を助けるため…) まるでこれから行われる行為が必然であり、その行いを肯定するかのように自分自身に楓は言い聞かせた。 楓は激しい口づけから徐々にねっとりとした舌の動きにしていき、そのままゆっくりとつばきの唇から離すと、絡まった唾液が糸を引き、つばきの唇をさらに濡らす。 「…どうなっても知りませんし、あくまでも発散させるだけですよ」 自分の中に決まった決意を、楓はつばきを真っ直ぐ見つめて伝える。 「いいよ…お前なら。それに、俺、物分かりの良い執事は大好きだよ」

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