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第2話
ある日ふと思い立って書いたちょっとした文章が、投稿サイトで思いのほか人気が出た。
数話書いたところで、ラッキーなことに出版社の人の目に止まり、今では久遠 と数為 シリーズとして、単行本化もされる位の人気シリーズとなり、俺は今や先生と呼ばれる身分になっていた。
ただし作者、細村薫 が男女どちらの性であるかは公表しておらず、しかし大体のファンは女性として認識しているようだった。それはBL小説というジャンルのせいでもあるんだろうけど。
「そろそろ書き始めて2年、いや3年か…俺だって書けるものなら書きたいよ!あぁ、くそっ!!」
出版社のビルから出て、あまり人のいないいつもの道を歩く。いい時も悪い時も感情を口に出せる、人に聞かれる事のないこの道が好きで、俺専用道路と呼んでいた。
「大体さぁ、動かないっつーか見たこともないモンをどう書けって言うんだよっ!」
またちょうどいいところにベンチが備え付けてある。
ある程度の感情を吐き出し、どかっと座る。まるで俺のために作ってくれたかのような仕様だ。
しばらくそこで空を仰ぎ見ながらぼーっとしていると、なんとなく次も頑張るかと言う気持ちになるから不思議だ。
ようやく帰宅するとアニキが階段から下りてくるのにぶつかった。
その後ろから彼も下りてくる。
「薫君、今夜はオムレツとオムライスとどっちがいい?」
聞かれて、んーーーと数秒悩む。
「オム…ライス!」
それを聞いたアニキが彼と笑い合う。
「何だよ!?」
「薫君がどちらを言うかでお風呂掃除を賭けたんだけどね…」
「二人ともオムライスだったから賭けになんなかったんだ…よっ!」
ピンとアニキが俺のおでこを指で弾く。
「っつーーーーー!!!」
「もう、八つ当たりしないの!大丈夫?薫君。」
心配そうな顔で覗き込もうとする彼の首に軽く腕がかかり、アニキの方に抱き寄せられていく。
「嫉妬深え!」
俺の言葉に
「当たり前だろ!愛してるんだから!!」
「恥ずかしい…」
彼が真っ赤な顔で俯くが、とても幸せそうで、はあとため息が出た。
それと同時に、今月のネタができたと、忘れない内に脳のストックにさっさと入れる。
そう、この二人が俺の小説の主人公達だ。
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