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第4話

二人を主人公で何となくで書き出したものの、「現実にいそう」だの「リアリティ度高め」だのとレビューやいいねをもらい、その度に、 実在の人物を書いているんだから、現実にいるし、リアルに決まってんだろと笑っていた。 しかしここに来て、俺はまさしくここでやめるか書き続けるかという別れ道に立っていた。 すでに3年近くも書いていながら、一向にそちらの方…ベッドシーンに進まないのだ。 キスや触るくらいのことはあっても、まだ一度も二人が洋服を脱ぐことはなく、編集者からもそろそろいかがですか?と打診される様になっていた。 その度に 「俺の書き方は、キャラが勝手に動き出すから、俺の思い通りにはいかないんだよ!」 と、言ってきたがなんて事はない。 二人のそういう事を見たことがないから書けない!ただそれだけのことだ。 他の人達は想像力とやらで書いているようだが、俺は目の前にいるアニキカップルの日常、それに少し盛り付けしただけなんだ。それでこの3年間書いてきた。他の書き方なんて知らないし、そもそもできない。 はぁーーーーーと大きなため息が出る。 「編集長まで呼ぶなよなぁ。」 いつものベンチに座って、天を仰ぎ見る。 いつも通りに原稿を出版社に持って行った。ただ、通された部屋がいつもの小部屋じゃなくてでかい会議室。入るとすでに担当と編集長が俺を待っていた。 しんとした部屋。パラパラと原稿を捲る音だけが聞こえる。 「ダメですか?」 編集長が原稿から目を上げる。 何がと聞くまでもない。 「そう…ですね。」 「彼等が動くのを私達も待っていたいですし、先生のことも信頼しています。 ただ、今月のアンケートのご意見欄を見ていただければ分かっていただけると思いますが、読者にそっぽを向かれては、どうにもならないのです。期待も過ぎれば、失望に変わります。そうなれば…ご理解いただけますよね?」 丁寧な言葉の中に、書け!という凄まじい圧を感じる。 「…。」 書くとも書かないとも言えず、俯いて黙り込む。 まるで初めてここに来た時のようだ。 あの時は良かったな。 嬉しくて、ニヤニヤと笑ってしまう口元を隠す為、ずっと俯いていた。 同じ状態でも状況は正反対だ。 「先生、来月こそはよろしくお願いしますよ。いい煽り文、考えておきますから!」 突然にポンと肩を叩かれ、え?と思う間も無く編集長が扉から出ていった。 「マジか…。」 崖から落とされたような絶望的な気持ちになりながらも椅子から立ち上がると、残っている編集者に視線を向ける事なく手を上げて部屋から出た。

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