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第5話

あっと目を開けると、さっきまでは青かった空がいつのまにか赤く変わっていた。 出版社のビルを出て、いつもの俺専用道路に向かった。しかし今日に限っては、俺専用道路で感情を吐露しても、ベンチで天を仰ぎ見てもやる気も書く気もまったく起きる事はなかった。 ぽかぽかとした太陽の暖かさが眠気を誘い、考える事を放棄していつのまにか熟睡していたらしい。 「帰るか…」 そろそろ夕飯の時間だ…早く帰らないと兄貴に怒られるし、彼が心配するだろう。 そう思い、立ち上がろうとして自分にかかっている大きめのバスタオルに気が付いた。 「え?何これ?」 自分の尻の下にあるメモ書きが目に入りそれを手に取ると、少し硬めの筆跡の字で、「起きたら、ベンチの後ろの家に来てください。貴重品を預かってあります。」と書いてあった。 え?と自分の手を見ても周囲を見回しても、持っていたはずの鞄がない。 「マジか…」 後ろを振り向くと、今まで空き家だとばかり思っていた家に電気が付いている。 「住んでたのか、人。」 そう思ってから、自分のこれまでのこのベンチに座っての言動を思い出し、汗が吹き出した。 誰もいないと思い込んでいた俺は、ここでは思うがまま、出てくるがままに言いたい事を言っていた。 「全部聞かれていた…のか?」 頭を抱えて、その言葉一つ一つを思い出しては赤くなったり、青くなったり、顔が大変なことになる。 そんな俺の言葉を聞いていたかもしれない人物に鞄を返してもらわなければならないなんて、どんな罰ゲームだよ! はぁとため息をつくが、このままここで夜を明かすわけにもいかず、兄貴に怒られるのも嫌なので、仕方ないと覚悟を決めると、かかっていたタオルを畳んで、言われた家のチャイムを鳴らした。

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