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第7話
「どうだった?」
「美味しかったです。ご馳走様でした。」
箸を置いた。
好みの味な上に好物ばかりで、箸が止まらず、一気に食べてしまった。
「良かった。あまり他人に食べてもらうって事がないから、実は心の内ではハラハラしていたんだ。」
「え?」
「でも食べてもらうのは好きだなって、薫さんと食べてみて分かった。すごい楽しい…あ、一緒に食べたからか?まぁいいや…食器下げるね?」
「あ、はい。」
目の前の食器を渡すと、ありがとうと受け取ってお盆に乗せ、ちょっと待っててと宗也さんが部屋を出て行く。
鞄を持って来てくれるのかなと思っていたが、戻って来た彼の手にはビールとつまみを乗せたお盆。
「飲めるでしょ?」
言われて、帰りたいという気持ちよりも目の前の冷たく冷えたビールの誘惑に勝てず頷いた。
乾杯とグラスに注がれたビールをごくごくとグラス半分くらいまで飲む。
すぐに宗也さんが注ぎ足してくれた。
それを見ながら、
「あのぉ、宗也さんは何で俺の事をこんな風に良くしてくれるんですか?」
意を決して、ずっと不思議に思っていた事を口に出した。
「ずっと聞いていたから…かな?」
やっぱり聞かれていたのかと顔が赤くなる。
「薫さんが家の前のベンチに座るようになってからずっと…あ、別に聞こうとかって思ったわけじゃなかったんだけど、どうしても耳に入って来ちゃってさ…」
だよなぁと汗が噴き出してくる。
「ここ最近は、あの…ベッドシーン?の事で悩んでたみたいだから…気になっていたんだ。」
「すいません!とんでもない事を聞かせてしまって…」
「いや。それでちょっと気にしていたら、あんな風に寝ていたもんだから、勝手に色々とやってしまいました …こちらこそ申し訳ない。」
頭を下げられて、やめて下さいと宗也さんの肩を押した。
上半身が立ち上がり、顔も上がった。
まじまじと見ると、なかなかにイケメン。細マッチョで、身体全体のバランスがいい。
「宗也さんは何をされている方なんですか?」
俺の愚痴をここで聞いていたとなると、ここが仕事場?それともまさかのニート?
そんな事を考えていると、宗也さんがふふっと笑った。
「実は…あなたのお役に立てるかもしれない事をやっています。」
「え?俺の役に立てる?」
「んーと、これ。」
DVDを渡され、そのパッケージからすぐにアダルト的なものだとわかる。
「男優…さん?」
「そっちもだけど…一応、これを作っている小さな会社の社長です。」
「じゃあここって…?」
「自宅兼会社。こちら側が自宅で、表通り側に事務所があるんだ。俺もこういうのを作っているんで、そういう系の本は結構読んでいて…薫さんの本もシリーズ全巻読んでますって…これじゃあただのファンか!?」
はははと頭をかきながら笑う。
そんな宗也さんを見ながら、
AVの為にBLまで読むなんて勉強熱心なんだなぁ。
そんな事を思っていた。
ただ、こういうある意味プロの意見を聞ける機会は稀だしと思い切って宗也さんに問いかけた。
「やっぱり物足りないですか…?」
「え?あぁ、ベッドシーンの事?んー、俺は見過ぎてるからなぁ。そういうのがない関係がとても目新しくて、いいと思うけれど…。」
「そう…ですか…」
はぁと大きなため息が出た。
やはりあった方がと言うことか。
そうやさんが言えない言葉を引き継いだ。
「あのさ薫さん。一ファンとして、君の役に立てられるものを用意してあるんだけれど、もらってくれるかな?
この流れだと多分AVだろうなぁ。
でも実の所AVはもらってもなぁと考えあぐねていると、
「よく見て?そのDVD。」
宗也さんに言われて再びパッケージを見ると、男性しかいない。
「これって…?」
「ゲイビってやつ。あ、素人さんに手を出すような会社じゃないから安心して?」
「じゃあ、くれるって言っていたのって…?」
「そう、家で作ってるゲイビをさ資料として見てみたらどうかな?って。」
「欲しいです!あ、ただ貰っても実家なんで見る場所がなくて…」
「だったら、この廊下の奥にある部屋を使っていいよ。」
「はぁ?」
「家の方は俺しかいないし、その部屋にデッキもテレビもあるし。どうだろう?終わったら夕飯を一緒に食べてよ?
薫さんと食べると美味しいからさ。」
そう言って宗也さんにニコッと笑顔を向けられた俺は、仕事場兼資料室を夕飯付きと言うとんでもない高待遇で手に入れた。
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