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第2話 盗っ人兄妹(1/12)

ぼーっとしたまま見つめる景色は、誰もいないぐちゃぐちゃのシーツ。 これまでに何度も見覚えのある光景に、手を伸ばしてベッドを撫でてみる。 冷たい。 ってことは、居なくなってしばらく経つのか…。 そんなことを考えながらまたぼんやりしていると、ついウトウトしてしまう。 昨夜は誰と寝たんだっけ。 …そうだ、たしか、ジーンだったかな。 さすがダンサーだけあって、腰の使い方がうま… あれ?いや、昨日はぎこちなかった気がするぞ。 夢見心地で考え事をしてもまとまらない。 それにしたって不思議なくらい、昨夜の相手が誰だったのかハッキリ思い出せない。 それどころか断片ですら、行為の記憶が見当たらない。 悪い予感がする。 そう思ったアルは、夢の世界に連れていこうとする枕から無理やり頭を剥がして、胡座をかいてベッドに座り込んだ。 記憶がないことは何度かあった。 一度は飲み過ぎて飛んだ。 だからお酒の量には気を配ってるし、その前に昨夜は飲んでいない。 あとのは体質だ。 アルは普通の人間とは少し違って、お尻には長くてしなやかな黒い尻尾が。 頭上には黒い三角の耳がついている。 猫のような耳と尻尾。どちらも血の通う本物だ。 身体能力も猫に近いものがある代わりに、悩まされている部分もあった。 それが発情期。 猫のように定期的にではなく突然訪れるそれに、理性と記憶を食われたことが何度かあった。 そうならないように性欲の処理には気を使っていたはずなのに。 「うわぁぁどうしよう、やったなぁ…どうしよう、あぁぁ…」 激しい後悔の念から、両手で顔を覆って嘆いた。 今回はどんな子に手を出したんだろう。 純朴な少女を汚してたら? そうでなくても必要以上に乱暴に扱ってたら? もし、避妊していなかったら。 悪い方向に考え出すときりがない。 抱えた頭の中を、懺悔とごめんなさいがぐるぐる回り始めた頃に、シャワールームのドアが開く音がアルの耳に届いた。 へたり込んでいた両耳がピンと立つ。 ともかく、謝ろう。 それからきちんと話し合いをして万が一の場合は責任を…いやいやその前に服! と、慌てて周囲を見回すと、床に放り投げられた自分の聖服を見つけた。 他の服と一緒にすかさず拾い上げて、素早く袖を通していく。 近付いてくる足音に比例して、冷や汗が滲む。 ドアが開くと同時に土下座するつもりで、ベッドの横の床に膝をついて座った。 ガチャ、と、ドアノブが下がる。 固唾を飲んで磨りガラスの向こう側を凝視していたが、違和感を覚えた。 どこかで見たような。 というか、ものすごく見慣れているような。 キィ、とドアを鳴らして現れたのは、投げ捨てられていたものと同じ、紺色の聖服を着た青年。 海のような青い髪に、透き通るような青色の瞳。 目が合うなりギクリと頬を強張らせたのは、退魔の相棒であるユーベルだった。

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