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第2話 盗っ人兄妹(5/12)

路地裏の中でも薄暗い一角に、今は使われていない住居があった。 いや、使われていないのは持ち主からすれば、だ。 陽当たりも悪くなかなか借り手のつかないその家は、今でははみ出しものの若者たちの溜まり場になっていて、そんな者たちの間ではアジトと呼ばれて親しまれている。 そんなアジトの中でオルカは一際苛立っていた。 「くっそふざけやがって!」 怒鳴り声と共に財布を壁に投げつける。 そばに居た弟分が驚いて、飲み掛けのグラスを落とした。ガチャンと派手な音がして、床にガラスの破片が飛び散る。 「どしたんオル姉。また男にでも間違えられた?」 冗談のつもりで軽く笑う少年の顔に、オルカの拳がめり込んだ。 そしてそのままのけ反って、うまいことベッド代わりのハンモックへ倒れ込む。 「誰が男に見えるって? ええ?」 パンパンと手を払いながら投げ掛けた言葉に答えたのは、ギッギッと軋む縄の音だけだった。 弟分に一発かましただけでは気が収まらず、肩を怒らせて部屋の中をうろついていると、誰かが家に入ってくる音がした。 カモだ。誰かはわからないが、殴って気を晴らそう。 そう考えたオルカは咄嗟に壁に張り付いて身を隠すと、足音が近付いてくるのを見計らって飛び掛かった。 不意打ちだ。 当然、拳に伝わる衝撃がある、はずだった。 「あら?」 「おいこら、『こんにちは死ね!』はやめろって言ったろーが」 やけに手応えがないと思ったら、拳はうまいこと大きな掌に収まっていた。 「なんだぁ兄貴か」 「あからさまにガッカリするのやめろよ、傷付くぞ」 肩から力が抜ける。 兄貴と呼んだけど、別に血の繋がりはない。 金髪をツンツンと跳ねさせたひょろっと背の高いこいつは、ただ先にここに居た歳上ってだけだ。 殴りかかったところですっきり出来る相手じゃないし、ガッカリするのは当然だった。 「てーかなんじゃこりゃ。荒れるのはいいけど片付けもちゃんとしろよ」 兄貴と呼ばれた金髪の男が、床に散ったガラスを避けようと奇妙なステップを踏んでいる。 「知らんし、それやったのアタシじゃないもん」 そんな滑稽な様子をオルカが壁に寄り掛かって見ていると、ハンモックからゆるゆると力なく手が挙がった。 「お、俺が…オル姉に…お、とこって…」 そこまで言って再び力尽きた。 きっとオルカの眼力で意識の縁から突き落とされたに違いない。 「はーん、はーん」 ステップ男がニヤニヤしながら近付いてくる。 「まぁた間違われたのか。なるほどなぁ」 「うっさい!」 カッとなって平手をかましたつもりが、避けられて空を切る。 「嫌ならもっと女の子らしい格好すりゃいいだろーが。スカート履くとかさぁ」 「大きなお世話なんだよ! 大体、スカートなんざ履いてたら高いとこ走れねーだろ!」 殴りかかっても蹴りかかっても飄々と避けられて、余計に苛々したところで、オルカの足は宙に浮いた。 「つーかまーえた」

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