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第2話 盗っ人兄妹(7/12)
「囮だった?」
「うん」
露店で賑わう大通りに戻ったアルとユーベルの二人は、店頭に並んだ様々な商品を目で追いながら歩いていた。
と言っても探し物があるのはユーベルの方で、アルはその後ろをついて歩くだけだ。
「前に猫さんが気を付けろって言ってたからね」
「言ったけど…あーあ、あの子今ごろ絶対キレてるぞ」
「そうかもね」
あはは、とのんきに笑うユーベルとは対照的に、あの少女がムキになって付け狙って来るのが目に見えて、アルは気が重かった。
プロなら、空の財布を掴まされた相手には二度と近寄らない。
でもあの子は子供だったし、勝ち気な性格を考えても、プライドを傷つけられたと考えるタイプだろう。
きっとユーベルから金目の物を奪うまで、虎視眈々と機会を狙ってくるはず。
そう考えていたアルは不意にポンと手を打って、なるほど!と、一人早合点すると、店番の青年と何やら言葉を交わす相棒の肩を力強く抱き寄せた。
「安心しろ、俺が24時間つきっきりで警護してやるからな」
ここ一番の爽やかな笑顔を作って言ったアルを見て、ユーベルと店番の青年が同じ顔をする。
これは、そう、言うなれば、鳩が豆鉄砲を食らったような顔だ。
「えっ、なにその顔」
「…いや猫さんこそ、なに急に?」
そう言ったユーベルが肩を抱く腕を払おうとするもんだから、なんとなく意地になって、アルはもう一度しっかり抱き直した。
怪訝な顔をしていたが観念したのか、ひとつ溜め息をついたユーベルが店番に会釈するのを見届けてから、強引に歩き出す。
歩きにくいだの離してだの聞こえた気がしたが、周囲を警戒していて聞こえないとでも言いたげに、アルの頭上の耳はずっとそっぽを向いていた。
露店通りを北に抜けると、大きな時計を掲げた女神像が十字路の中央に座している。
角の部分にはそれぞれ食品、雑貨、鍛冶などの専門店が入っていて、そこを利用する様々な人々が行き交っていた。
小国とはいえ流石は首都、どこへ行っても大抵の場所は賑やかだ。
「どこまで行くの?」
「ネズミが顔出すまで」
「聞こえてるじゃない」
しまったと耳を背けた時にはすでに、ユーベルの肘がアルの脇腹に刺さっていた。
「おふっ」
二、三歩よろめいたアルが打たれた場所を押さえる。
ユーベルがやっと軽くなった肩をさすりながら辺りを見渡すと、不審な影が街路樹の裏に潜むのが見えた。
「あぁ、さっそくお出ましの予感」
「ああ?」
つられてアルも、ユーベルの視線を追いかける。
「やっぱり来たか…だーから言ったのに」
「ほんとだね」
「暢気だなぁ」
気が付いていないフリをしながら他愛のない会話を演じていると、おそらく、というか確実に、彼女であろうその影が人混みに紛れながら近付いてくる。
少女の小さな手がポケットに届く距離まで迫ってきたところで、アルは徐に声を上げた。
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