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第2話 盗っ人兄妹(9/12)
そう問いかけられた彼女は、顔を伏せたままユーベルの方を指差した。
「あの青いヤツも…」
声を震わせる迫真の演技で指をさされたユーベルは、他人のふりをしてやり過ごそうとしていたことを後悔した。
さっさと立ち去っていれば良かったと。
周りの野次馬と、自警団の青年の視線を一身に受けたユーベルは、仕方なく前に進み出た。
「…えーっと…、本当に、ただの兄妹喧嘩なんですけど…」
気まずそうに出てきたユーベルが聖服に身を包んでいるものだから、周りは一気にざわついた。
こんな形で注目を浴びるのはなんとも理不尽だ。
それに、野次馬の方々によく見てほしい。
肩を覆う羽織りの有無はあっても、アルだって同じ服を着ているのだ。
犯罪者の肩を持つことになったユーベルが視線を地面に落としたままで居ると、自警団の青年が顔を覗き込むために彼に近付いた。
「あれっ? あなたは…」
その瞬間、僅かだがアルの尻尾が膨らんだ。
そして金髪の男は目ざとくそれを見逃さなかった。
「あ、やっぱり! いつも大聖堂にいらっしゃる、ユーベルさんではないですか?」
「え? えぇ…そうですけど」
「やはりそうでしたか。あなたが言うなら間違いありませんね、無駄にご足労願うところでした。失礼いたしました」
「は、はぁ…」
先程まで疑惑の目で周りを見ていた自警団の青年は、あっさりと態度を翻してきっちりと敬礼してみせた。
職業柄、一方的に顔を知られていることも少なくないユーベルは、ひとまずこの場が丸く収まるならいいか、と穏やかな笑みを返した。
「わかってくれたなら、いいんです。すぐに静かにしますので、三人を解放してください」
「も、もちろんです! いや、すみませんでした。早とちりしてしまって」
そう言って一礼する青年に、アルと金髪の男が交互に不満を漏らす。
「最初っから兄妹喧嘩だって言ってたろーが」
「んだな」
「ていうか俺だって聖堂に居るっての! 服みて服!」
「確かにな」
「あと馴れ馴れしいんだよ! 誰だか知らねーけど」
「好きなんだな」
「当たり前…はあっ!?」
ぼやき合戦に終止符を打ったのは、金髪の男だった。
いかにも可笑しそうに、喉の奥でクックと笑う。
「お前、バレバレ。てーか、そーか。そっちの気もあったのか」
「ち、違…ちっげぇーよ!」
「うける。クックッ…」
「違う!!」
担がれたまま背中に聞こえるやり取りを、オルカは一字一句逃さずに聞いていた。
そして確信した、やっぱり変態じゃねーか、と。
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