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第2話 盗っ人兄妹(10/12)

自警団の青年とユーベルは周りの野次馬に会釈を交えて騒ぎを収めていた。 人が散って、通りが普段の賑わいに戻ったところで、青年は帽子を取って林檎のような赤い髪を見せた。 「いや自分、妹がおりまして。エレノアって名前なんですけど、見習いとして聖堂に通ってるもんで、何度もお見かけしてたんですよ」 「あ…あぁ! エレノアのお兄さんでしたか。言われるとわかりますね、髪の色も同じだし、よく似ています」 「へへっ、どーも。可愛い妹が憧れてる人がいるって、よくあなたの話をするもんですから」 「ははっ、それは光栄ですね…って、それ人に言ってはまずいような気が」 「あれっ? まずかったですかね…じゃあ聞かなかったことに…」 「はい、では、聞かなかったことに」 二人が和やかに談笑していると、ズンズンと近付いてきたアルが強引に身体を割り込ませる。 「はいはい、騒ぎも収まったんだからもういいだろ? おにーさんは仕事に戻ってくださいねー」 青年の肩を持ってくるりと反転させたアルが、大げさに手を振ってさっさと追い払おうとする。 本日何度目かの割り込みに、流石のユーベルも呆れて眉を寄せた。 「と、ともかく、妹のこと、よろしくお願いします! ではまた!」 「あっ、はい、また」 慌ただしく去って行く青年に短く挨拶を済ませると、ユーベルは満足げなアルの背中に拳を一発ねじ込んだ。 「痛い! なんで!?」 「うん、なんとなく。ところでさっきの二人は?」 アルのやきもちにかまけている間に、金髪の男と少女の姿はすっかり見えなくなっていた。 彼らに面識のないユーベルは、アルとの関係が少し気になっていた。 「あー、あいつら捕まったらマジでまずいから、さっさととんずらしたんだろ。…どうせあそこに居るだろうし、久々に顔出してみるかなぁ」 独り言のように言うアルを見て、改めて気付かされたユーベルがぽつりと呟く。 「…私、猫さんのこと、あんまり知らないね」 「…へ?」 そうなのだ。 考えてみたら、知っているのは目の前に居る時の彼のことだけ。 出生や、日頃何をしているのか、本名は何なのかすら、ユーベルは知らなかった。 それなのに恋人という席にお互いが座っているのだから、なんとも不思議な間柄である。 「えっと、それってさ、やきもち妬いてくれてんの?」 「…え!?」 ユーベルにそんなつもりは微塵もなかったが、言われるとそうなのだろうかと首を捻った。 自覚のないまま、アルが妙に嬉しそうに笑うならそれでいいかと曖昧に頷いた。 「そうなのかな。…そうかも。猫さんのことは、もっと知りたいな」 「…お、おう」 時折こうしてストレートな物言いをするユーベルに、アルはその都度胸の高鳴りを覚えていた。 興味を持ってくれているのが本当なら、もしかしたら少し深い関係に進めるかもしれないと期待して、もう一歩踏み込んでみようと口を開く。 「あー、なら、今夜一緒に過ごさないか? それで色々話そうぜ、なんでも答えるからさ」 「いいけど…外では無理だよ」 「そっ、外で!?」 「いやだから、外は無理だって言ったの」 あっさり承諾されて、少しばかりおめでたいことになっているアルの耳は、外という単語を直結回路で夜の営みに繋いだ。 「私の部屋でいい? 夜間外出は色々と面倒だから」 「…も、もちろん!」 おめでたいアルが妄想に耽っていくのを、ユーベルは暢気に、幸せそうだなぁと眺めていた。

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