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第4話 バレンタイン(4/5) いちゃいちゃ

ユーベルがチョコレートを仕分ける作業に戻れたのは、クリスとアルが罵り合ってそれぞれ部屋を去った後だった。 数少ない男性司教だというのに、そりの合わない二人の今後を考えると頭が痛む。 「もー、なんで仲良くできないかなぁ…」 ぶつぶつと零しながら差出人の名前をメモしていると、またも不意にドアが叩かれた。 「なに、クリス? 忘れ物でもした?」 そう声を掛けるとドアが開かれて、不機嫌そうなアルがずかずかと入ってきた。 「あれ、猫さん」 「クリスじゃなくて悪かったな。聖服忘れた」 ピリピリした空気を纏ったアルはユーベルの前を横切って、自分の忘れ物を取りに浴室へ踏み入った。 「ドアから来るなんて珍しいから間違えただけだよ。それと聖服は洗っちゃったよ」 「…ん…」 そう言われて室内を見ると、暖炉の前に干してある聖服が自分のものだと気が付いた。 さすがはユーベル、気遣い慣れしていて、頼んでもいないのに皺にならないようきちんと広げられている。 さり気ない好意を与えてくれる相手に不愉快なのをぶつけたバツの悪さで、アルは頭を搔いた。 「あー…、ごめん。ありがとう」 「いいよ。乾くまで待つ?」 別段気にしていない様子のユーベルを見てほっとしたアルは、素直に頷いた。 暖炉の暖かさと、黙々と開封作業を続ける紙の音が頭をぼうっとさせる。 テーブルに着いて、コーヒーのカップを手にゆっくり過ごしていたアルの口から、悶々と考えていたことが滑り出た。 「…あのさユーベル。俺のこと、どう思ってる?」 「どうって…なに、急に。女の子みたいなこと言って」 チョコレートの差出人の名前を書く手を止めてユーベルが顔を向けると、いつになく気落ちした様子のアルが椅子の上で膝を抱えていた。 「さっきの。なんか俺ばっか我慢させられたから」 「あぁ…なんだ、そんなこと気にしてたの」 女々しくいじけるアルは、ユーベルが笑う空気が不愉快だった。 「そんなことって…!」 噛み付こうと顔を上げると、いつの間にか目の前に瞳があって、思わず息を呑んだ。 突然の出来事なのに、その瞳の青さが、純粋に綺麗だと思った。 「猫さんは、私の大事な人。誰よりも」 「っ……、よ、よく、言えるな、そんなことさらっと…」 「ふふっ…本当のことだからね」 至近距離のまま話されて、ユーベルの吐息が鼻にかかる。 目を逸らしてしまうほどドキドキさせられて、少し悔しくなったアルは、仕返ししてやろうと不意打ちで唇を触れ合わせた。 「――!」 すると案の定、ユーベルは口元をおさえて離れた。 じわじわと顔を紅くして。 「すっげー近いから、キスして欲しいのかと思って」 「ち、違…」 してやったりと笑うアルに、ユーベルは背を向けて咳払いをした。 そしてごまかすように話題を変える。 「そ、そうだ、猫さん。どうせコーヒー飲んでるなら、これ食べてってよ」 そう言って仕分けるために開封したチョコレートを、テーブルに置いた。 途端にアルの耳がピンと立って目が輝く。 「えっ、いいの? お前が貰ったんだろこれ」 「食べてくれると助かるんだけど。一人じゃなかなか大変で」 そう言って視線で示す段ボールの山を見て、アルは思わず立ち上がった。 「まじか…! パラダイスがここに!」 「あっ、渡したのだけにして。まだ誰がくれたのか全部は見てないから」 「お、おお…そうか、貰い過ぎるのも大変なんだな」 「あはは…ありがたいんだけどね。ここの子達もくれるから、それを皆に振る舞うわけにもいかないし…」 困った様に笑うユーベルの口元へ、アルが綺麗に並ぶチョコレートをひとつ取って、差し出した。

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