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第6話 違和感(6/8)

ユーベルは大通りから逸れて、路地裏の小さな個人商店に入った。 招かれたクリスが民家のようなドアをくぐり抜けると、様々な雑貨や土産物が所狭しと並ぶ店内に、分厚い眼鏡をかけた青年が紛れて座っていた。 「あー、いらっしゃい」 不意の挨拶で人が居たことに驚いて、クリスの肩が跳ねる。 流石に失礼だったと咳払いで誤魔化すクリスをユーベルが笑って、彼は店主と話を始めた。 「こんにちは。調整は終わってますか?」 「誰だっけ…あー、あー…」 「…ガトーさん、眼鏡取ってください」 ガトーと呼ばれたボサボサ頭の男は、指摘されて気が付いたようにピンセットで何やら作業していた手を止めてやたら分厚い眼鏡を取った。 それからポンと手を打つ。 「ああ! 誰だっけ!」 「…誰でしょうね」 「あっはっは、冗談冗談。終わってるよユーベルさん」 ガトーが紫色のウニのような頭を揺らして、ガサゴソとそこら中を漁る。 積み上がっていた羊皮紙が崩れて、埃が舞う。 「ちょっとガトーさん、人の物を何処にしまってるんですか」 「あっれ、どこやったっけな…ちょっと待てよーえーと…」 ボリボリと頭を掻きながら、猫背のまま立ち上がったガトーは、奥の部屋に消えて行った。 しばらくガサゴソと物音が聞こえた後で、ふらっと戻ってくる。 「ああ! そうそう思い出した、無くさないようにレジに入れたんだった!」 「そんなとこに…ま、まぁ、あるなら良かったです」 ガシャンと開かれたレジの中から、掌に乗るサイズの小箱が出てきた。 それをガトーが二人の目の前で開けて見せる。 中には、クリスでもたまにしか目にしない、ユーベルのイヤリングが入っていた。 「これで間違いないか?」 「はい。いつもありがとうございます」 「はっはっは! こんなもん親父くらいしか扱えないからな!」 お父様はお元気ですか?と会話を続けながら、ユーベルは今つけている予備のイヤリングと、調整済みのイヤリングの交換を始めた。 はっとしてそれを見ていたクリスは、クリップ式の金具を留める指先から目を離せないでいた。 普段は長めのサイドの髪に隠されているイヤリングが、あの時、アルがユーベルの髪に触れた時、不意に目に入ったのだ。 それがいつものイヤリングとデザインが違っていたことが、クリスがユーベルに感じた違和感の正体だった。 滅多に目にしない物だからはっきり記憶出来ていなかったことに悔しさを覚えつつ、それでも胸のつかえがおりてほっとするクリスの横で、ユーベルが別れの挨拶をする。 「お代は、お父様に渡してあります。また顔を出すので、よろしくお伝えください」 「あいよー。こっちこそ、その内俺が跡継ぐ予定だから、よろしく頼んます」 最後にひとつお辞儀をしたユーベルのために入口のドアを開けたクリスも、彼に恥を欠かせないように丁寧にお辞儀をして店を後にした。

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