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第6話 違和感(7/8)

帰り道を歩きながらクリスがじろじろと耳元を見ていると、気が付いたユーベルが困ったように笑って耳の辺りを手で隠した。 「ちょ、ちょっと、見すぎ。気になるのはわかるけど」 「はい、気になります。そういえば、いつも着けてらっしゃいますね」 「あれ? さっき言わなかったっけ?」 「何をですか?」 先程、クリスの質問にユーベルが答えていた時、クリスは心ここに在らずだったのだ。 おかげでイヤリングのことなど聞きそびれていた。 「聞いてなかったんだ」 「…すみません」 「じゃあもう教えてあげない」 意地悪を言うユーベルが楽しそうに笑う。 楽しそうなのは嬉しいのだが、イヤリングのことが気になって仕方がないクリスは、こういう時のユーベルの扱いをよく知っていた。 「ユーベル様は時々、子供じみたことをしますね」 「ははっ、嫌味?」 「そうです。…もういいです」 挑発したあとで、これ見よがしに拗ねてみせる。 そうすると、大体の場合ユーベルは構ってくれるのだ。 そして今回も、この思惑は上手くいったようだった。 「はいはい、拗ねない。大したことじゃないよ、身に着けてないと困るってだけ」 こうして答えてくれたユーベルが、クリスの背中をポンと叩く。 昔はこの仕草も、頭にしてもらえていたのに、伸びてしまった身長が少し悔やまれる。 「困るというのは?」 「んん…説明するの面倒くさいなぁ…」 あまり面倒臭がったりしないユーベルが、ぼやいて腕を組む。 それから困り笑顔を作ってクリスを見た。 「…また今度じゃだめ?」 「…今、知りたいです」 ユーベルの心の声が聞こえた気がした。 ジーザス、と。 そんな彼に誘導されて通り道にある広場に立ち寄ると、人気の少ない場所を選んで二人で向かい合った。 「クリス。魔法って使えるよね?」 「はい。基礎的なものなら一通り」 「うん。たとえば、この街路樹にヒールを掛けてみて」 「? はい」 言われた通りに、街路樹に向けて回復魔法であるヒールを放つ。 すると街路樹がふわりと薄緑色に発光して、すぐに元に戻った。 それはそうだ、本来この魔法は、人体の治癒力を瞬間的に高める魔法なのだ。 「これが何か?」 「クリスはそうやって、離れたところから魔法が使えるでしょう?」 そう言って、今度はユーベルが街路樹に手を翳す。 そして、何も起こらなかった。

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