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第9話 好み(1/10)

さてさて、寒い時期は日の昇りが遅い。 まだ薄暗い時分に、大聖堂の面々が食堂に集っていく。 壁に彫られた女神と、高い天井にまで続く翼を持つ使徒の彫像。 一定間隔で並ぶ背の高いガラス窓。 大きな暖炉はパチパチと爆ぜる音と暖かさを皆に届けている。 けっこうな人数が一堂に会して席につき、祈りを捧げ食事をする様子は、不慣れな者からすれば圧巻の光景だろう。 よく私語厳禁だと思われがちだが、過度な大声でなければ言葉を交わすことは自由だった。 あちこちで談笑が行われ、和やかな朝のひと時が過ぎていく。 列をなす長テーブルを眺められる位置にお偉方の席があって、司教の三人もそこに名を連ねていた。 ひと足先に食事を終えたアルが、コップの水を飲んだあとに、手の中のそれをじっと見る。 「そういやお前ら、好きな飲み物ってある?」 お前ら、と呼び掛けられたユーベルとクリスが食事をしながらそれぞれ考えて、パンを片頬に寄せたユーベルが先に答えた。 「んー、選んでいいなら紅茶かな」 次いで、ベーコンを端に避けてサラダばかりを口に運ぶクリスが頷いた。 「僕もです」 「猫さんは?」 「あー、好きなのは珈琲だけど、鼻が利かなくなるんだよな」 「へぇ、そんなこともあるんですね」 アルの答えにクリスが返す。 顔を合わせれば口喧嘩しているように見えるが、常識的な交流もあるにはあるのだ。 何気ない会話を交わしていると、ふと横に居た神父が割り込んできた。 「御三方、酒は口にしないのですか?」 およそ神父の発言に似つかわしくない内容だが、それとは別の意味でユーベルが笑った。 「神父様、我々は未成年です」 「あぁ…そうでしたね、失念してました。特にユーベルは、私にとっては先輩でもありますから」 ユーベルがここへ配属されてから神父の代替わりがあったので、大聖堂の中ではユーベルの方が古株なのだ。 「あはは。クリスなんかまだ十六ですよ。見た目でいえば、一番落ち着きがありますけど」 「それは、褒められてるんですよね…?」 三人が口々に話していると、アルが不意に手を挙げた。 「ちょっと待て、俺三十過ぎてるけど」 「……はぁあっ!?」 あまりの衝撃で、大声を上げて席を立ったのはユーベルだった。

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