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第9話 好み(8/10)

二人が離れて少し経った頃に、ふと思い出してユーベルが尋ねた。 「ところで猫さん、何か用事があったんじゃない?」 するとアルはへらへらと笑って答えた。 「べつに、昼寝しにきただけ」 「あぁ、そう…」 「お前もするか?」 するわけないと踏んで、なーんてとアルが言い掛けたところで、意外な答えが返ってくる。 「して…みようかな。たまには」 「まじか。今日のユーベルおかしいな」 「ふふ、そういう日もあるんだよ」 話しながら、アルがソファーのクッションを寝心地よく整えていると、袖がツンと控えめに引っ張られた。 「あの…どうせなら、…一緒に寝ませんか?」 人恋しいのか、心細いのか、ユーベルにしては大胆な誘いに、アルは喜びを通り越してむしろ不安を覚えた。 本当に大丈夫か、今日のこいつは…と。 そして何より。 「えっ、なんで敬語使った? いや、かなりぐっときたけど…すげぇぐっときたけど」 「う、うん、お願いしようと思ったら、年上なんだなって思い出して…」 「今更? えっ…今更!?」 へへ、と困ったように笑うユーベルに、アルの方こそ困って頭を掻いた。 今日のユーベルがおかしいのは充分にわかった。 なんだか、彼のペースを刻めていないのだ。 こんな時は寝てリセットするのが一番効くだろうと、彼の頭をポンと撫でる。 「まぁ、俺に比べりゃ子供みたいなもんか…でも今まで通り喋ってくんない? 寂しいだろ、周りそんなんばっかだし」 クッションを片手にベッドまで歩いて行くアルが言うことに、ユーベルは人ごととは思えない既視感があった。 自分も、寂しいがためにクリスには普通に接して欲しいと望んだのだ。 女神の威光で祀り上げられた司教の自分ではなく、等身大の自分を見て欲しかった。 結果、それは叶わなかったが。 「…うん。そうだね、わかった」 ユーベルが答えると、早々にベッドに横になったアルが手招いた。 側まで寄って、躊躇いがちに腰掛けたユーベルの腕をアルが引く。 「ほれ、さっさと寝なさい。寝て起きたら治るだろ、たぶん」 そう言って横をポンポンと叩く。 ユーベルも、自分で言い出した手前、照れてる場合じゃないと腹を括って、空いたスペースに向かい合う形で横になった。 分不相応だと感じていたベッドも、二人で寝るには少し狭い。 落ちないようににじり寄ると、ふわりと毛布が引き上げられて、アルがユーベルの背中を引き寄せた。 「おやすみ。起きたらまた話そうぜ」 「うん…ありがとう猫さん。おやすみなさい」 少しの間、名残惜しそうに二人の視線が絡んで、やがて猫の瞳が瞼に閉ざされた。 静かに聞こえてきた寝息につられて、ユーベルもまた、ゆっくりと目を閉じた。

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