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第9話 好み(9/10)
目が覚めた時に、隣に想い人が居る幸せったらない。
自分の腕を枕にして安心して眠る相手が、日頃は一人で立つのが当たり前で、誰かに寄り掛かろうとしない性格の持ち主だと、信頼されている喜びも殊更大きい。
そんな、ちょっと小難しいことを寝覚めのアルが感じていた時だった。
腕の中の恋人が、規則的な呼吸を止めて、静かに目を開いていく。
「ん…。ん…? あれ…」
寝ぼけ眼のままぼんやりと見上げてくる表情が、年齢よりも幼く感じて、思わず笑みが零れた。
「おはよ。昼寝したの、覚えてるか?」
「…、あぁ、そっか。うん、おはよう」
昼寝なんて滅多にしないから、混乱したんだろう。
朝はいつもアルより早くて、誰かに寝起きを見られることのないユーベルが、少し気恥ずかしそうにはにかんだ。
「あ…腕、痺れてない?」
「ん? あぁ、へーき。…いやちょっと痺れてるな」
「えぇ…降ろしてくれて良かったのに、ごめんね」
そう言ってユーベルが頭を浮かせると、枕じゃない方の腕が首をぐいっと引き寄せて、気が付いた時にはアルの胸の中でぱちりと大きく瞬きをしていた。
「…うわ、びっくりした」
「おそ。時差すげーな」
「あはは。ちょっと、寝起きだと頭が」
頭が働かないついでに、目の前の胸板に頬を擦り寄せる。
普段は恥じらいに負けて出来ないが、こうして距離をなくして温もりを感じるのがユーベルの好む触れ合い方だった。
多少息苦しい分、より温かくて、篭った声でユーベルが笑う。
「また笑ってる」
「ふふ…猫さん、こうするの好きなのかと思って」
「ん…まぁ、そうだな。お前もだろ?」
「…うん。気持ちよくて、好きだよ」
少し沈黙が流れた。
言葉の意味を、アダルトなお誘いと勘違いして無駄にドキドキするアルと、急にだんまりになったアルに自分の台詞を思い返して、気まずさを察したユーベルと、それぞれの思惑が込められた視線がぶつかる。
「あっ、ち、違う! そういう意味じゃなくて」
「狙ってんのか? 狙って言ってるのか? だとしたら生殺しもいいとこだぞ、このやろう」
「うわ、ちょっとやめ…く、擽った…あはっ! やめて! ごめんなさい! あははっ!」
このまま踏み込んでいけない腹いせに、アルがユーベルの脇腹を擽る。
擽ったさのせいだとわかっていても、楽しげに笑うユーベルの頬が紅潮していくのを見ると、完全に墓穴を掘ったと言わざるを得なかった。
アルの下半身は健康で、そして素直だった。
「わ、笑い疲れた…」
「だろうな」
ぐったりした様子でぜぇぜぇと息をするのさえ、アダルトな感じにしか見えない。
アルの脳みそは今、少し可哀想なことになっている。
そんな可哀想なフィルター越しに、アルはユーベルに馬乗りになって、顔の両側に手をついた。
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