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第10話 猫の迷い-前編-(1/20)

本日夕刻前、盛大なお預けを食らったアルは、真剣に悩んでいた。 月に一度の総礼拝のある日は何かと忙しいようで、ユーベルが部屋に戻るのは深夜になりそうだった。 司教、司祭、修道士、それと教会側の神父とシスター全員が大広間に集まり、博愛を司る女神へ祈りを捧げることと、その月の予定を共有する目的で行われている集会行事。 それが総礼拝だ。 本当はアルもそこに参加して然るべきなのだが、仕方なーく神父の伝達事項だけは欠かさず顔を出しているので、その後のことはいつも他の面々に任せきりなのだ。 なにせ、司教の座についておきながらアルは神を信じていなかった。 自分の目で見たものしか信じない現実派のアルには、実在するとは思えない女神に向かって讃美歌を捧げたり、祈りを捧げたりといった行為はむず痒くて仕方がなかった。 それに聖書の内容を知ったところで、明日の自分の飯に繋がるかと考えると、やはり不要なものだと思えるのだ。 猫の耳と尻尾、なんて、非現実的なものをくっつけておきながら、信仰に関しては嫌にリアリストである。 そんなアルでも真面目に参加して、月の予定の一つでも担当すればユーベルが戻るのも早まるだろうに、面倒が嫌いなアルはそれに気付かないフリをしていた。 そんなサボり癖のあるアルが何を悩んでいるかというと、持て余した性欲をどうするか、である。 人によっては呆れて物が言えない悩みかもしれないが、彼にとっては深刻な悩みだった。 猫の血のせいか、異常にムラムラと発情することがあって、そうなると行きずりの相手と記憶に残らないセックスをしてしまう。 そうならないように、性欲の管理には人一倍気を付けて、かなりの頻度で自分で慰めて過ごしてはいるのだが。 今日は、そういうことをしておかなければまずい事になる可能性があった。 それも大いに。 さて前置きが長くなったが、アルには二つの選択肢があった。 一つは、何時になるかわからないユーベルを待って、再び襲い掛かること。 ただしこれは、お断りされる可能性も大いに秘めていて、そうなると翌日まで大人しくしている自信が持てない。 もう一つは、ちょっと街に繰り出して、そういう仲の子と事を済ませ、何食わぬ顔で帰ってくること。 うん、こっちだな、とアルは決めた。 すぐ決めた。 今日は特に、待っていて断られた場合のリスクが高すぎる。 性欲に飲まれて、記憶にも残らない乱暴なセックスなんてしたくない。 しかもそれが二人の初めてになるなんて、絶対にごめんだった。 決断したアルはちゃちゃっと目立たない服装に着替えて、すっかり日の落ちた街に人目を忍んで繰り出して行った。

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