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第10話 猫の迷い-前編-(2/20)
路地裏にある歓楽街の一角で、アッシュグリーンのウェーブ掛かったロングヘアーの女性を見つけたアルは、鮮やかな光が溢れる店先で呼び込みをする彼女に声を掛けた。
「おーす、ジーン」
「ん? おぉ、アル! なんだ、ちょっと久しぶりじゃないか?」
ぴったりとしたワンピースの裾をひらりと舞わせて、ジーンと呼ばれた女性はぱっと表情を明るくした。
男を魅了する引き締まった体躯を生かし、ダンサーとして活躍する彼女は、呼び込みを仲間に任せて気さくな態度で店にアルを招き入れた。
「元気してた? 最近見ないから恋人でも出来たのかと思ってたわ」
「元気元気。元気すぎるから会いに来た」
「あっは! そりゃそっか」
会話を交わしながら、ジーンは店の中を通り抜けて、また別の飲み屋に入った。
ついて行くアルも、飲み屋の店員も酔っぱらった客も誰も気にしない。
当然のように二度ほどそうすると、狭い間隔でドアが並ぶ建物の前に出た。
楽しげな喧騒が遠くに聞こえる中、その内の一部屋にジーンがアルを招き入れる。
「シャワー使っていいよね? アンタいつも急なんだもん」
「おー、もちろん。…お前はいい相手とか出来てねーの?」
「出来てたらこんなことしないって!」
「まぁそりゃそうか」
浴室のドア越しでも会話が出来るほど親密な二人は、盗っ人達が使っているアジトで出会った古い知り合いだった。
稀に発作的に発情するアルを見かねたジーンが相手になってくれて、それからどうしようもない時には世話になっている、というある意味割り切った関係である。
シャワーを終えて出てきたジーンが、恥じらいはあまりない様子でタオル一枚で居るのも、割り切った関係というのを物語っていた。
「なんかリクエストある?」
「ん? んー…じゃあ、じっくり見せて」
「なんだそれ。また変態臭いリクエスト来たな」
あはは、と明るく笑いながら、ベッドに膝立ちになったジーンはバスタオルに手を掛けた。
素肌が見えないように縦に広げたタオルを、自分の身体にぴったりと張り付ける。
豊満な胸元にツンと突起した影が浮いて、いやらしさを強調したジーンが悪戯っぽく唇を舐める。
「ではじっくり見せます」
そう言って、バスタオルの端を指先でほんの少しだけつまんだ。
それを器用に、少しずつ、たくし上げていく。
タオルの端がじわりじわりと浮き上がって太股に差し掛かったところで、アルがごくりと喉を鳴らした。
日頃目にしない太ももの、内側の、見えそうで見えない絶妙なラインに目が釘付けになるアルは、女性に対する普通の感覚も持ち合わせていた。
柔らかそうな曲線、浮き上がる内ももの筋。
そしてジーンは、そんなアルの好みを熟知しているのだ。
「…来ていいぞ」
興奮の色を隠しもしない猫の目を笑ったジーンがそう囁くと、アルは飛びつくようにしてジーンとベッドに雪崩込んだ。
息を荒げて、首元に口付けようとして、ぴたりと動きが止まる。
「…ん、どうした?」
「いや…今日さ、上に乗ってくんない? そういう気分」
「しょーがねーな」
ジーンはまた笑って、アルのリクエストに付き合ってくれた。
子供が好奇心で次から次に遊びを作り出すように、気が向くままにお互いの身体を使って交わる。
まるでフランクなその行為は、アルが二度果てるまで続いた。
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