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第11話 古傷(3/13)
しかしすぐに額を押さえる。
「あー、やっぱなしなし。今の無し」
「…? 何かあるんですか?」
「ううん、独り言。なんでもないよ」
クリスが掘り下げようとすると、ユーベルはにっこりと笑って誤魔化そうとした。
「えぇー、今の独り言こそ無しですよ。気にならない方がどうかしてます」
「あはは…だよね…」
責められたユーベルが、珈琲を一口飲んだ。
一息ついてから、観念して口を開く。
「ブレグロントに…送ろうかなって。一瞬ね、一瞬思っただけ」
「ブレグロントですか。故郷ですよね、確か。」
「ん…まぁ、そうだね」
どことなく敬遠していそうな雰囲気を感じて、クリスはユーベルをじっと見た。
目が合って、珍しくユーベルの方が気まずそうに先に逸らす。
「…最近帰ってないから、顔を見せに来いってしつこく言われてるんだよね。行かなきゃとは思ってるんだけど」
「それなら丁度いい機会じゃないですか。」
「んー、うーん…」
ユーベルがまた腕を組んで悩む。
難しい顔で考えているということは、何かがあるのだろう。
故郷がないクリスには、わからない悩みだった。
二人が頭を悩ませていると、年中お気楽そうなアルが食堂に入って来た。
夕食前の一服と称して、濃いめの珈琲を自作して勝手に同じテーブルにつく。
「何してんの? 二人揃って」
悩みなんてなさそうでいいなと思ったクリスが毒を吐く。
「人望のないあなたには、わからない相談です」
「相変わらず口悪いなお前…」
顔を合わせるとすぐにピリつく二人の間に、ユーベルが割って入った。
「はいはい。クリスしっ。チョコレートをどうするかって相談。クリスは甘い物が苦手だからね」
ユーベルに言われると素直に従うクリスには、まだ可愛げがあった。
無いのは、アルの方だ。
「うっわ嫌味か、二人そろって嫌味か! 人望がないんじゃない、みんなが俺を見る目がないんだよ」
「う、うん…?」
それはつまり、人望がないと言えるのでは?と混乱したユーベルが首を傾げる。
呆れたクリスが鼻で笑って、ここぞとばかりに責める。
「人望があったら、チョコレートがたったひとつということは無いのでは」
「うるせぇ! 量より質だろ!」
「ふん、ヒルダ様からは僕も貰ってます」
また始まった、と頭を押さえたユーベルは、いがみ合う二人を止めるのも面倒になって、そっと席を立った。
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