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第11話 古傷(6/13)

「それがリアリティがあれば信じます。」 「何それ…えぇ…」 ユーベルの目が泳ぐ。 逃げられないのを知らしめるように改めて腰を掴むと、焦ったような声で話を始めた。 「うぇえっと! …は、入って来るなりいきなりキスが始まったから、出るに出られなくなって」 「はい」 照れか緊張か、ユーベルの声が少し震える。 「女性の方が悪戯っぽくねだって、…神父様は拒めない感じで」 「はい」 神父のところで言い淀んで、そのあと、少しずつ声のトーンが落ちていく。 「何度かキスしたあとに、布が擦れる音、が」 そこまで言ったユーベルが、口元に手を当てた。 青ざめた顔が顰められて、クリスの頭に疑問符が浮かぶ。 「…ちょっと待って、君いまいくつ?」 「十六ですね」 「あっぶな! 未成年に何聞かせてるんだ私!」 自分に言い聞かせているのか、不自然に元気な声だった。 また何か、知らない一面が見え隠れしている気がして、揺さぶりをかけてみよう、とクリスは忌避されている言葉を選んで瞳を覗き込んだ。 「ユーベル様、もしかして性行為が苦手ですか?」 「っ…」 意外にも、図星の反応だった。 でもそれは一瞬だけで、すぐに取り繕われる。 「そうじゃない。ああいう現場に遭遇するのって、思ったよりショックが大きいみたい。もういいかな…」 「そうですね、ユーベル様も未成年ですもんね」 「…そういえばそうだ」 こんど神父に埋め合わせをしてもらおう、そう思って気が緩んだユーベルの視界が、突然入れ替わった。 くらりとした頭で見上げると、クリスの空色の目が見下ろしてくる。 「未成年同士なら、何も悪いことはないんじゃないですか?」 「え…何その理屈!?」 ユーベルが拒む前に、クリスは首元に口を寄せた。 襟を避けて肌に唇を触れさせると、すぐに肩が竦められて押し返される。 「何してんの…!」 「子供の戯れです」 腕を押さえ付けたクリスが唇を重ねようとすると、大袈裟に顔を背けられた。 代わりに、チャリ、と目の前に差し出されたイヤリングに口付ける。 「ちょっと、やめなさい。さっきの今でこういうのは…」 「思い出しますか?」 「…うん。…っ、だめだ、気分が…」 凛とした声で制したにも関わらず、組み敷いている腕に力が入ることはなく、具合の悪そうな素振りは演技ではないようだった。

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