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第11話 古傷(10/13)

「…急に、びっくりした、よね」 「ん…少しは楽になったのか?」 「うん…」 鼻が詰まって呼吸が儘ならない。 それに、少し落ち着いてきて、ショックなことに気が付いた。 ただの寝汗じゃない。 この、下着の中のヌルつきは、あれだ。 同じ夢をみる度に起こって罪悪感とトラウマに苛まれる、無意識の射精。 気持ち悪いのに、なんでよりによってあの夢で。 本質的には興奮してるのだろうかと、自分さえ信じられなくなるこの現象が、非常に腹立たしい。 このせいで、女性恐怖症どころか射精恐怖症も患っている自覚がある。 そんな病があるのかどうかは別として。 おかげさまで自分じゃまったく触りすらしないのだ。 いっそ雌に産まれていれば良かったのかもしれない。 「…聞いてくれる? 色々と」 「おう」 「…夢精した」 「…お、おう…片付けてくるか?」 「うん…ごめん、行ってくる」 アルなら性的なアクシデントにも寛容な気がして、すんなり言えた。 目の前で泣いたせいで、羞恥心も一緒に流れてしまったのかもしれない。 ふらふらと浴室まで足を引きずった私は部屋着のままで蛇口を目一杯ひねって、シャワーを被った。 どうせ、服も洗う必要があるのだ。 たまにならこんな自棄を起こすくらい可愛いもんだ。 シーツは朝になってから変えよう、あまり物音を立てたくない。 今は何時だろうか。 三時くらいか? あんな夢を見たのは、アルと身体を重ねたせいか。 クリスにあのことを打ち明けたせいか。 あるいは、どっちもなのか。 浴室から戻ると、寝汗を吸ったベッドのシーツは新しくなっていた。 ぼーっと見ていた私に、湯気の立つマグカップが渡される。 「おかえり。しんどそうだから替えといたぞ」 「あ…ありがとう…」 受け取ったマグカップの中身は、穏やかな色のミルクティーだった。 温かくていい香りで落ち着く。 それに、今日のは甘さを抑えてあった。 おいしい。 そして今更ながら、シーツを替えられたのは流石に恥ずかしい。 まだ羞恥心があったようで安心した。 「ご迷惑おかけしました…」 「いいよ。俺もよくやるから、気にすんなって」 よくやるのか…? 一度も気が付いたことはないが、本人が言うなら本当なのかもしれない。 または励ますための気休めかもしれない。 どっちでもいいか。 確かなのは、アルが気を使ってくれていることだ。 それが素直に嬉しい。 「座って、話すか? それとも、ベッドで聞こうか?」 「ん…ベッドに、座る」 キシ、と腰掛けると、アルが隣に座って、肩を抱き寄せられる。 触れ合うのが好きな人だ。 おかげで今、心の傷が少し軽くなった気がする。 …不思議な人だ。

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