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第11話 古傷(11/13)
「…夢を、昔の」
何から話そうか、まとまらない。
転げ出た言葉が繋がらない。
うまく話そうとしたって駄目だ。
自分でも、はっきり思い出すことを拒んでいるのに。
言葉に詰まっていると、アルが誘導してくれた。
「…いつぐらいの?」
「うん…ここに来たばっかりの頃」
「そうか。…なんの夢?」
「…セックス」
「…、そうか。」
アルが動揺する。
ごめん、君には内緒だって誤魔化したけど、女性経験はあるんだ。
何度も。
相手は一人だけど。
…こんなこと、言えない。
でも今から言おうとしてるのは、つまりこれだ。
アルが期待するような潔白な身体じゃなくて、申し訳なく思えてくる。
「前に、少し言ったよね。悪戯を、って」
「…うん」
「そのときの。…前にいた、シスターが、寝てるところに乗ってきて、…毎晩」
少し気分が悪くなって、マグカップを口に傾けた。
胸のざわつきがミルクティーに絡まって、共に落ちていく。
「…まだ何も知らない子供だったのに。痛くて、怖くて、辛くて堪らなかった。誰にも言えなくて…おかげで今も夢に見て、そういう時は必ず夢精してて」
だめだ、細かく思い出しそうになる。
記憶が蘇るのを止めたい。
その一心で額を手で押さえる。
「…嫌な記憶なのに、なんで私の身体は反応するんだろう。もしかして心の奥では、喜んでたりするのかな。彼女が帰ってくるのを、望んでたりするのかな…自分のことが、わからない…」
言えた。
一度口を開いてしまえば、すらすらと思っている事を言葉にできた。
今まで誰にも言えなかった事なのに、アルにすんなり寄り掛かれるのは、好きだからだろうか。
それともアルが大人だからだろうか。
肩を抱く彼の手が、励ますように上下に擦られる。
「いや…たぶん、だけど。勝手なこと言うけどさ…そういう風に、させられたんだろ。条件反射っていうか…、射精しないと終わってくれない、とか…違うか?」
…そうだ。
言われてみて気が付いた。
確かに執拗に攻められて、出るまでひたすら身体を弄られた。
時には朝方まで掛かることもあった。
それ以来、嫌で嫌で仕方ないのに、早く出さないと、と矛盾した気持ちも生まれて、無意識下で葛藤していたのだ。
思い通りになりたくない自分と、言われた通りに従って早く解放されたい自分。
せめぎ合う感情で心の中まで苦しくなって、考えるのをやめてしまったんだ。
「…そうだ。それだ。出さないと許してもらえなかった。…あぁ、なんだ。彼女を欲してたわけじゃないんだ。…なんだ。あぁ、良かった…」
なんだか身体から力が抜けてふらっとした。
アルが、自分の肩に頭を凭れさせてくれる。
考えるのをやめていて、蓋をしていた記憶に光を照らしてみたら、単純なカラクリだったというわけだ。
誰かに話すことで、こんなに簡単に救われるなんて。
しかもそれを生業にしているのに、いまさら気付かされるなんて。
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