108 / 109

第11話 古傷(12/13)

「…猫さんって、陽だまりみたい」 「きゅ、急になんだよ…」 「温かくて、優しく照らしてくれて、気付けばそばにある。」 「…なんだそれ」 アルが顔を逸らすのがわかった。 ずっと俯いたままでいるせいで見えないが、照れてる顔は想像できた。 冷め始めたミルクティーを口に傾ける。 …おいしい。 「…ふぅ。聞いてくれて、ありがとう」 「ん。落ち着けたんなら、良かった」 頬が撫でられて、促されて顔を上げると、唇がそっと重なった。 久しぶりに、アルの目を見た気がする。 「…気持ち悪いって思わないの?」 「馬鹿。思うか馬鹿。…こういうことすんの、本当は嫌だったりする?」 「…ううん。猫さんは、平気」 「そっか…嫌なことは、ちゃんと嫌って言えよな。」 「たとえば、裸の女性の雑誌を見せてくる時とか?」 「う…わ、悪かったよ」 「…ふふっ、冗談だよ。あのくらいなら、なんとも思わないよ」 笑ってアルの唇にキスを返した。 この人のことが平気なのは、単純に好きだからだろうか。 男性だから、安心するのだろうか。 それとも、他の誰とも違う瞳が、絶対的に彼女ではないからだろうか。 …最後のが理由だとしたら、とても口には出せない。 「…なに、考えてる?」 「ん…猫さんのこと。どうして好きになったのかなって」 「へー、なんで? 聞いてみたい」 改めて考えみたが、これといって具体的なきっかけが思いつかない。 じわじわと惹かれていた感じだろうか。 「…なんでだろう?」 「…おい、ちょっとショックだったぞ今の」 「あははっ、なんでだろうね。」 笑っていたら、もう一度唇が重なった。 今度は舌が差し込まれて、口内を探られる。 いつものキスにどこか、ほっとする自分が居る。 ちゅ、と音を立てて離れていくアルの唇が、名残惜しい。 「は…、もう少し…」 「ん…」 囁きかけると、アルは応えてくれた。 少しずつ、身体の芯がジンと熱くなってくる。

ともだちにシェアしよう!