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第11話 古傷(12/13)
「…猫さんって、陽だまりみたい」
「きゅ、急になんだよ…」
「温かくて、優しく照らしてくれて、気付けばそばにある。」
「…なんだそれ」
アルが顔を逸らすのがわかった。
ずっと俯いたままでいるせいで見えないが、照れてる顔は想像できた。
冷め始めたミルクティーを口に傾ける。
…おいしい。
「…ふぅ。聞いてくれて、ありがとう」
「ん。落ち着けたんなら、良かった」
頬が撫でられて、促されて顔を上げると、唇がそっと重なった。
久しぶりに、アルの目を見た気がする。
「…気持ち悪いって思わないの?」
「馬鹿。思うか馬鹿。…こういうことすんの、本当は嫌だったりする?」
「…ううん。猫さんは、平気」
「そっか…嫌なことは、ちゃんと嫌って言えよな。」
「たとえば、裸の女性の雑誌を見せてくる時とか?」
「う…わ、悪かったよ」
「…ふふっ、冗談だよ。あのくらいなら、なんとも思わないよ」
笑ってアルの唇にキスを返した。
この人のことが平気なのは、単純に好きだからだろうか。
男性だから、安心するのだろうか。
それとも、他の誰とも違う瞳が、絶対的に彼女ではないからだろうか。
…最後のが理由だとしたら、とても口には出せない。
「…なに、考えてる?」
「ん…猫さんのこと。どうして好きになったのかなって」
「へー、なんで? 聞いてみたい」
改めて考えみたが、これといって具体的なきっかけが思いつかない。
じわじわと惹かれていた感じだろうか。
「…なんでだろう?」
「…おい、ちょっとショックだったぞ今の」
「あははっ、なんでだろうね。」
笑っていたら、もう一度唇が重なった。
今度は舌が差し込まれて、口内を探られる。
いつものキスにどこか、ほっとする自分が居る。
ちゅ、と音を立てて離れていくアルの唇が、名残惜しい。
「は…、もう少し…」
「ん…」
囁きかけると、アルは応えてくれた。
少しずつ、身体の芯がジンと熱くなってくる。
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