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第2話

中1の春、母親が死んだ。 父親は俺が生まれたときにはもういなかったから、俺には母親しかいなかった。 とはいっても、家族というような扱いをされたことなど一度もなかった。 家にはいないで男のところ行ってるし、制服の金だって食費だって全部俺持ちだった。 その後、バース検査でΩと診断されて少し母親がいないことに安堵した自分がいた。 もし、母親がいたら俺はもっと邪険に扱われてた。 見た目はほぼβと変わらないし、厳つい見た目をしていることもあり中学は喧嘩三昧だった。 親友で幼馴染の(るい)はαだったけど、バース検査後も変わらず接してくれた。 「ぐっ…てめぇ……」 「うるせぇ。黙っとけ負け犬が。」 3人の集団で絡んできた奴らをぶっ飛ばす。 塁は、俺を守りながら喧嘩するようになったと最近気づいた。 「その程度なら絡んでくんじゃねぇよ。」 そう言い捨て、足早に塁はその場を去る。 三年間、絡まれる度にそれに対応する形で喧嘩をしてきた。 幸い、絡んできた奴らに俺のバース性がばれることはなかった。 まぁ、まだヒート来たことないし。 でも、高校生になる今いつヒートが来るかわからない。 大体18歳になるまでには来るらしいし。 横にいる幼なじみ、塁に視線を送る。 俺の目に気づいた塁がおちゃらけて話しかけてくる。 「どした?(ゆき)。」 「(ゆき)って言うなクソ塁が。」 調子に乗って話しかけてくる塁を睨みつける。 誰が雪だよ。 俺の名前は雪希(せつき)だってのに。 「…俺さ、絡まれやすいしそれに対応して喧嘩してるじゃんか。」 「ん?そやね。」 歩きながら塁を見上げる。 …相変わらずでかくてむかつく。 取り合えず、軽く蹴っとこう。 お得意の蹴りをくらわせておく。 「いてっ!?え、え、なんで?」 …ちょっとスカッとする。 ついでに縮んどけ、クソが。 「背、縮め。…謝るのは癪だったし対応し続けてたけど。」 「……おぅ。」 俺が蹴った膝を摩りながら、塁が返事をする。 「…高校なるし、やめるか。」 「喧嘩?」 俺の突然の提案に、塁は驚くことなく淡々と返事する。 そういや、こいつ。 俺が喧嘩始めたときも、こんなだったもんな。 「ん。真面目に生きるか。」 「…雪希がそうするなら俺もそうしよっかな。あーでもさ。」 いつもおちゃらけている塁が急に真面目な顔になる。 なんだよ…()ぇんだけど。 「喧嘩してきた奴らはそうじゃないかもよ?」 「あー。そうなったらぶっ飛ばそう。」 基本的にはもう喧嘩しない、そう二人で決めて俺達は喧嘩から足を洗った。 喧嘩をやめたところ俺らは一緒にいるわけで。 生活は大して変わらず、独りになって3度目の春を迎えた。

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