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第5話

中学校の時、塁以外で唯一仲良くしてた奴から貰ったネックレス。 新しいの欲しいけど買うのめんどくさいって話をしてたら、誕生日の時にくれたんだっけ。 ――あの後、アイツに関するものはすべて捨てたと思ってたのに。 「………ホク。なんであんなことしたんだよ。」 二度と会うことないだろうアイツを思う。 仲が悪かったわけじゃないし、むしろ仲良くしてた。 だからこそ俺は、塁に言われるまですべてを忘れてたわけだし。 「……………もうどうだっていいや。これ、捨てよ。」 「雪希、泣いてんのか?」 突然、後ろからかけられた声にビクリと震える。 「…誰。泣いてない。」 こういうときは焦って振り返っちゃいけない。 こういうときこそ、落ち着けって教えてもらった。 だから俺は振り向かない。 「へぇ…やっぱりそうなんだね。」 何がやっぱりなのかわからないけど、ノコノコと俺に近づいて来た奴に思わず笑いそうになる。 先に動いた方が負ける。 俺等の中で当たり前言葉(セリフ)だ。 まぁ、先に動いたって負けたことはなかったけど。 「負けだよ。」 嬉しそうな声が頭上から聞こえる。 残念だけど俺はこの状況下で負けない。 ギュッと右手を捕まれる。 こうなったら俺の勝ち。 相手が右手に集中している間を狙って左肘を溝落ちに―― 勢いよく左肘を引く。 当たらない…!? コイツまさか避けて… 「なっ…!?」 強く床に押し付けられる。 「負けだよ。雪希君。」 嬉しそうに笑いながら話しかけて来る。 なんで…? あの状況で負けるなんてありえない…。 「…如月、どけ。」 「へぇ…。俺は先生だけど?」 厭味ったらしい表情で俺に馬乗りになる。 コイツ…ありえない。 「…如月先生どけ。」 「この状況、わかってないの?」 …わかってたまるか。 絶対に負けるなんてありえない。 なのに…。 「如月先生どいてください。」 「…はいはい。」 仕方なく、敬語を使う。 コイツは何か裏があると言うか何と言うか。 嫌な性格してそうだな。 「それで…何のようですか。」 「別に。」 何コイツ。 用事ないなら入ってくるなよ。 「用事ないなら――」 「君さ、元ヤンでしょ。」 俺の言葉を遮って、嬉しそうに言ってくる。 認めるべきか、それとも…。 「違いますけど。」 「長岡塁だっけ?彼もそうだよね。」 全然話してないくせになんでコイツは…。 一体何者なんだか…。 「もしそうだったとして、何がしたいんですか?」 「いや、特に何も?」 なんなんだよ!? さっきからコイツは…。 「まぁいいや。雪希さ、泣いてないって言ってたけど泣いてたよ。」 何が言いたいのか本当にわからない。 目元に手を近づける。 やっぱり泣いてないじゃねぇか…。 そんな俺を見て苦笑しながら、ヒラヒラと手を振って部屋を出ていこうとした。 これ、如月に捨ててもらうか。 「なぁ、待てよ。これ、捨てといて。」 「はぁ?教師をパシリに――って、これ捨てるのか?貰い物だろ、どうせ。」 どうせってなんだよ、どうせって。 失礼な奴…。 「あぁ、捨てといて。」 「…ふーん。」 何を考えたのか、少し嬉しそうに笑って如月は俺の部屋を出て行った。

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