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第8話

パッと目が覚める。 真っ暗…今は何時だ? 「ホク………」 譫言のようにホクを呼ぶ。 いや、もうホクはいないんだ。 違う、そもそも俺を助けてくれる人がいないんだ。 「…っ。リビングにある飲み物、自由に飲んでいいんだっけ…。」 もう寝れなそうないがする。 このまま起きててしまおうと布団から出る。 ぐっすりと眠っている結斗を起こしてしまわないように静かに部屋を出る。 「あっ、やばいっ…!――痛っ…」 階段を下りてる途中で踏み外し、下まで滑り落ちる。 情けない。こんなことで動揺して落ちるなんて…。 落ちたときに左足を痛めたのか、思うように足が動かせない。 ズルズル左足を引きずってリビングへと移動する。 共用の冷蔵庫から緑茶のペットボトルを取り出す。 寝転がれるくらいの大きさのソファーに座って、冷えたペットボトルを左足首に当てる。 しばらく冷やしておこうか。 「誰だ。」 突如、殺気立った声が聞こえた。 精神的に不安定だったこともあり、声のした方を慌てて振り返ってしまった。 「なに…?」 振り返ったものの、暗闇で何も見えない。 弱々しい声だけが響く。 「…雪希?お前、どうした――」 パッと電気がつき、俺を呼んだ奴が黙る。 「如月…。」 「…泣いてんの?」 ハッとして目元に手をやる。 濡れてる…本当に泣いてたのか? 「違う、俺泣いてなんか…」 「…強がりだなぁ。」 苦笑いしながら如月が俺の頭を撫でる。 …優しい。 言葉はキツイ癖に、なんでこんなに優しいんだよ。 まともに母親に頭を撫でられたことなんてなかったから、余計… 「長橋…お前ってやっぱり……」 「俺が…何?」 如月が切なそうに目を細める。 なんでそんな顔… 「…足、怪我してるでしょ?診せて。」 パッと真面目な顔になる如月に戸惑う。 今度は急に何なんだ…。 「なんで?別にこんなんほっときゃ治――っい“!?テメェっ!」 ほっときゃ治る。そういいかけたとき如月に強く左足首を捕まれた。 アホなのか?この先生は…。 確かに俺はほっときゃ治るって言いかけた。 でも、握りしめられたら別だろ!? 「大丈夫じゃないだろ。包帯巻いてやるから。」 「いい。別に平気だからほっとけ、こんな――」 「もう一回、握りしめてやろっか?」 意地悪な笑みを浮かべて俺の様子を見ている。 イライラしながらさっきの痛みを思い出す。 …大人しく、指示に従うか。 「わかったよ。座って待ってればいい?」 「ん。そうしてて。」 満足そうに如月が笑う。 なんか…似合ってる。 俺に背を向け、包帯を探し出した如月に声をかける。 「なぁ、なんでなんにも聞かないの?」 「…何?聞いてほしい?」 茶化すように如月が返事をする。 今まで、誰かに聞いてもらうのが嫌だった。 同情されるのが嫌いだった。 だけど―― 「じゃあ、聞いてよ。」 「…わかった。やりながらでいい?」 包帯と湿布を片手に持って近づいて来る如月に静かに頷く。 きっと、俺が誰かに話そうと思ったのは。 目に映る風景があの日と同じだから。 心細くて。 如月がいなければきっと俺はまた――すべてを忘れてしまうから。

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